インド高速道路局が高速国道7号線の作業を開始、100本以上の木が切り倒される

ビジェイ・ピンジャルカー(Vijay Pinjarkar)記 TNN ISTラムテク発 2010年2月13日

 議論の的になっている国道7号線(NH7)の4車線化問題が最高裁での最終審理を待つ状況であるにもかかわらず、インド高速道路局(NHAI)は1月25日にマンサール-カーナ間の工事を開始し、100本以上の木を切り倒した。

 作業は、カーナに近いテカディから15キロ区間の片側車線で開始された。NHAIが新たに着手した作業については、眉をひそめる人も少なくない。連邦の環境森林省と道路交通・高速道路省がこの問題に関して争っているからだ。道路省は現在のNH7を幅18メートルから30メートルに広げたがっているが、トラの密度が高い保護区へのダメージを最小限に抑えるべく、回廊(コリドー)として森林をつなぐ機能を高めることを支持する最高裁の特別中央委員会が反対したのである。

 訳注:最高裁環境専門家パネルの意見が最高裁で支持されれば)ペンチ沿いの道路は生活道路として残し、二輪および四輪自動車のみが使用することになるだろう。インド高速道路局はすでに、ウッタル・プラデッシュ州のモレナからマディア・プラデッシュ州のセオニまでの南北連絡線536kmの4車線化を完了している。ナグプールからセオニまでは125kmあるが、うち65kmは豊かな生物資源を抱えた森林地域である。工事はマディア・プラデッシュ州にあるペンチ・トラ保護区の直前まで進められていたが、この道路は2つのトラ保護区を通ることになるため、4車線化によりトラの絶滅が確定するのではないかと恐れたセオニ側からストップがかかった。

 木の伐採を許可した職員らは、高速道路局が4車線化工事の開始を急ぐことに何ら疑問を向けなかった。木が伐採されているのは、地税地であり(revenue land)、作業を開始する前にラムテク地区森林官(Sub Divisional Officer)の許可がいるだけである。

 訳注:「地税地」は税務局が地税を徴収する土地で、林地とは区別されている。そのため、国有林におけるような森林を守るための強い保護が与えられない。しかし、実態としては森林になっている地税地も多く、そのような場所で伐採がまったく無規制ということにも問題がある。そこで地税地で伐採を行なう際は、地区森林官レベルに過ぎないものの、許可が必要とされている。

 ラムテク地区森林官(SDO)のJB サンジトラオ氏はタイムズ・オブ・インディア紙に、NHAIは2年前に伐採の許可を申請したが、これまで作業を延期していたのだと語った。最近になって作業の割り当てがあったとNHAIが報告してきたので、デオラパール-テカディ間に存在する、所定外の樹木(non-scheduled trees)に限り伐採を許可したのだという。樹木の評価を行ったラムテク・レンジ(訳注:林地内の区画の単位)の森林官(range forest officer (RFO)のMD ジェイスワル氏は、最高裁で繰り広げられている大論争について知らなかった。

「作業の割り当てについて言ってきたので、評価を行いました。テカディからマンサールまでの間で、道路の片側にある400本以上の木が切り倒されることになります。これらの木の価値は、全部で35万ルピー(68万6千円)以上と見積もられています」と、ジェイスワル氏は話した。

 この状況に対して、インド野生生物トラスト(WTI)の担当者であるプラフーラ・バンブルカー氏は問いかける。
「議論が決着していないのに、同じ地域で作業を開始するなんて高速道路局は何を考えているんでしょうか。もし明日、セオニ-チンドワラ・ナグプール間の4車線化を中止するよう最高裁が命じたとしたら、マンサール-カーナ間の区域で行われた作業は何の役にも立たなくなります。さらに、無駄な工事のために引き起こされた環境へのダメージに対して、誰が責任をとるんですか?」
(翻訳協力:木田直子)

【JTEFのコメント】
この伐採された地域は、JTEFが去年視察してきたトラが使っているコリドーの重要地点です。高速道路局は環境への配慮が全くなく利益追求のみの姿勢です。本当に一昨年許可が出ていたのでしょうか。既成事実を作ってしまおうと高速道路局が動き出し、森林局に圧力がかかったということはないのか、疑念がありました。
1月に「裁判の友」(第三者が事件の処理に有用な資料を提出して裁判所を補助する制度)が、高速道路局が言うように2、3箇所のアンダーパス(動物横断のための道路下の通路)を設置することで拡幅工事も許可できることを示唆しました(「最後のフロンティアの運命」参照)。ちょうどその時期にタイミングを合わせて伐採を開始したのではないかという疑惑がもたれていました。
その後、2月15日にカマル・ナート道路交通・高速道路大臣が最高裁に対して、代替ルートを提案し、事態は好転しつつあります。この代替ルートが森林・環境省、国家トラ保護機関が主張しているルートと完全に一致するかどうかはわかりませんが、とりあえず拡幅工事はしないと述べました。これはすばらしい成果ですが、まさにバンブルカーさんが言うとおり、今回の伐採は取り返しのつかない無駄な環境破壊ということになります。