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“希少動物好き”なベトナムの役人 役人の希少動物への欲求に阻まれる保護活動

Thanh Nien News 2012年10月12日

ベトナムは今、野生生物の最大の消費国、密輸の最終地点として注目されています。ベトナムの政府官僚が絶滅の危機にある野生生物製品の顧客になっているからです。リビングに飾られるトラやクマ、サイの剥製。それはベトナム人にとって富の象徴なのです…。

役人や富裕層が好んで絶滅危惧種を消費するため、保護活動は思うように進んでいない。

4月、南アフリカのブリッツにほど近い北西省にある私営の動物保護区では、警備員が草を食べるシロサイを監視している。世界の絶滅危惧種の93%が生息する南アフリカでは、サイの角の粉が癌の治療に効くと信じる中国やベトナムの要求に応じる形で殺されるサイの数が記録的に上昇しており、それにつれてサイの密猟者が私営保護区の所有者へと徐々にその狙いを向けつつある。

暗躍する野生生物の密売業者を追い詰める証拠となるはずのトラやクマやサイの剥製が、そうではなく政府の役人の住居で発見された。 このような事件はベトナムでは珍しくないが、まれにトップニュースとして取り上げられる。

数名の議員がVietweekに語ったところによると、政府官僚が希少動物の大口の顧客になっているというのだ。

実証されていない薬効成分を含む製品として珍重される製品を裕福なビジネスマンが度々求めるのは、自分達の富を誇示し、政府当局との良好な関係を強固にするためだと、議員の一人ははっきり述べた。

「最近では、当局が賄賂として受け取るのは贈り物や豪華な旅行や車だけでなく、サイの角やクマの胆液、トラの骨のペーストなども含まれます」と、National Assembly’s Committee on Culture, Education, Youth, and Children のLe Nhu Tien副議長は述べた。 Tien氏によると、絶滅危惧種のクマやトラ、アフリカスイギュウ、ヘビといった野生生物製品の多くが、高級官僚の手に渡っているという。Tien氏は、受け取った官僚の氏名や役職については言及を避けた。

専門家によると、政界上層部で培われた野生生物製品への欲求は下層部へと広がり、ベトナムの隅々にまで蔓延しているという。

国際保護団体のWWFは11月、23のアジア・アフリカ諸国におけるサイ、トラ、ゾウの保護対策についてまとめた報告書の中で、ベトナムを野生生物犯罪の最も深刻な国と位置づけた。

「政府当局者による野生生物製品の消費が、ベトナムでの野生生物保護への警鐘につながります」と、Tien氏は述べた。

変わらない状況


ベトナム国内では数々の調査が行われているが、野生生物の消費を牽引しているのが政府当局者と裕福なビジネスマンであることに変わりはなく、注目を集めることはない。
しかし、9年前のベトナムでは、より明るい兆しが見えていたであろう。

2003年、当時のホーチミン市産業省長官だったVo Thanh Longが、Dak Lak省Central Highlandsにある自然保護区で絶滅危惧種に指定されている2頭のスイギュウを射殺した罪により、執行猶予付きの懲役36か月の判決を受けた。

当時、市民や自然保護活動家らはこの処罰が野生生物製品を好む政府当局者への抑止力となると、大きな期待を寄せた。

しかし、その期待は裏切られた。

Nguyen Khanh Toan、Pretoriaで2006年11月、サイの角を国外へ持ち出したとしてベトナム大使館の職員が南アフリカ警察に告訴された。

2年後には、Vu Moc Anh第一秘書が大使館の前で南アフリカの密猟者からサイの角を買う様子が撮影され、大使館側は再び苦境に立たされた。

事を重く見た政府は2010年、政府官僚が野生生物製品の摂食またはそれ以外の方法で消費することを初めて明確に禁じる公式文書を発表した。

しかし、Vietweekが複数の議員や国立公園長、自然保護活動家から聞き取りをしたところ、野生生物製品の消費による罰を受けた当局の職員は1人もいないという。

こうしている間にも、政府当局者や富裕層によって野生生物製品は消費され続けている。

「政府や国民の認識不足に加えて、法執行機関が十分に機能していないことが野生生物保護の弊害になっています」と、昨年引退したThanh Hoa省北中部の元議員、Le Van Cuong氏は述べた。

国際保護団体は、ベトナムを世界で最も巨大なサイの角の消費国のひとつと位置付けた。

サイの角の製品は、その多くが世界一のサイの生息数を誇る南アフリカで生産されており、蔓延するサイの密猟に頭を抱えている。

このような主張に対しベトナム当局は、巨大なアジア市場の中継地点としてベトナムが利用されている述べ、取り合おうとしなかった。 しかし、大物銀行家の住居から高価な角が盗まれた疑いで先週から捜査が始まり、サイの角はベトナムで再び注目を集めた。

ベトナムの主要銀行のひとつであるSacombankのTram Be会長が現在注目を集めている。9月27日に、Tra Vinh省メコンデルタの彼の自宅から4キログラムのサイの角が盗まれたとローカルメディアが報じたためだ。

この盗難事件が注目を集めたため、ニューヨークに拠点を置くNGOの野生生物保全協会(WCS)はベトナム警察に対し、取引が厳しく規制されているサイの角について、合法的に取引されたか捜査するよう申し入れた。

Be会長は、盗難された角が付いていたサイの剥製が合法的に取引されたことを証明する書類を持っていると述べた。

当局は引き続きこの事件を捜査していると述べたが、推定で40億ベトナムドン(191,600USドル/15,226,452円 2012年11月9日現在))のサイの角がBe会長の住居に飾られていたことで、ベトナムのエリートにとってサイの角がステータスのシンボルであるという噂が改めて裏付けられることになったと、専門家らは述べた。

議員を務めるTien氏は、ベトナムの立法機関である国民議会に出席した多くの議員が、今回の事件に「憤慨した」と述べた。

「我が国は未だに貧しく、人々は苦しい生活から抜け出せずにいる」と、Tien議員は述べた。「このような状況下で贅沢な品を持つなど考えられないことで、絶滅危惧種の野生生物を護ろうとする国家の取り組みに深刻な打撃を与えています。」

逆効果?


WWFと国際サイ財団は、ベトナムに生息していたジャワサイの最後の一頭が、2010年4月に密猟者によって殺害された可能性が高いと発表した。

また、抜本的な対策が取られなければ、ベトナムに生息するトラやゾウも同じ運命を辿ることになると警鐘を鳴らしている。

しかし、保護活動家らは無念の思いを募らせることになる。農業・農林開発省が定めた法令により、ホエジカや数種のカテゴリーに分類されるヘビを含む、絶滅危惧種に指定されていない160種について1ヶ月間の狩猟と繁殖を認める許可書が発行されるのだ。

11月9日から実施される今回の決定について、農業・農林開発省は、野生生物の商業的利用を政府が監視できるようになり、地元農場からの野生生物の輸出の促進にもなると述べた。現在のところ、これが野生生物を保護できる唯一の規制である。

しかし、海外や地元の専門家らは、絶滅危惧種に指定されていない野生生物の商業的利用の合法化には細心の注意を払うべきだと述べた。

「新たな消費は市場の拡大につながる。この法令は新たな市場の機会を生み出すが、規制の網をかいくぐろうとするずる賢い企業家らの策略をベトナム当局が全て予測することは難しいでしょう」と、国際的な野生生物の監視機構であるTRAFFICのWilliam Schaedla東南アジア支局長は述べた。

Schaedla氏は、さらに問題なのは、この流れが野生生物の取引を拡大させ、野生生物を消費しても良いという認識をベトナムの国民全体に与えてしまう可能性が極めて高いことだと述べた。

「私が言いたいのは、商業的利用を続けられるだけの数の生物がベトナムに生息しているとは思えないということです」と、Schaedla氏は述べた。

TRAFFICによれば、ベトナムは東南アジアで最も森林伐採と人口過密が進んでいる国のひとつだという。

国立公園と野生動物保護区によって護られているのは、国土のたった3.4パーセントであると、同機関は述べた。

あらゆる困難に直面しているが、ベトナムで活動する保護団体は、野生生物の殺害への対策に奔走し続けている。

先月下旬、「350.orgベトナム」の約20名のボランティアがホーチミン市の第4地区に向かった。ローカルフードレストランのオーナーに対し野生生物の提供についてアドバイスを行うためだ。

しかし、これは逆効果ようだと、リーダーを務めたNguyen Khanh Toan氏は述べた。

「レストランのオーナーたちは全く協力する気がありませんでした」と、Toan氏は述べた。「彼らはすぐに我々に食ってかかり、追い出したのです。」
【翻訳協力】松村理沙

【JTEFのコメント 2012年11月】

ベトナムは今、最大のサイ角の密輸先であると同時に自国の野生生物も急速に失っています。2011年のIUCNのレッドリストでは、ベトナムのトラはわずか20頭。今や生存を確認することすら難しい状況でしょう。一刻も早く法に基づく徹底した取締の展開が必要です。野生生物絶滅回避のために消費をしないことの普及啓発は重要ですが、その広がりを待っている時間はベトナムにはありません。




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