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生物多様性国家戦略の改訂(案)に対して、環境省に意見を出しました

2012年7月6日、環境省が「生物多様性国家戦略の改定(案)」を公表し、パブリックコメントを求めました。 JTEFは、具体的な案が公表されるまでにも、環境省との懇談会などに出席して意見を述べてきましたが、8月3日、改めて意見書を提出しました。

生物多様性国家戦略とは?

「生物多様性条約」は、日本を含む締約国に対し、「生物の多様性の保全および持続可能な利用を目的とする国家的な戦略もしくは計画」を立てることを義務づけています(第6条(a))。この「国家的な戦略もしくは計画」が生物多様性国家戦略と呼ばれているものです。
「国家的な」というのは、その国の活動を支える各セクター(中央政府、地方政府、営利・非営利の民間セクターなど)の行動すべてをターゲットにした、という意味を含んでいます。
そして、すべてのセクターの行動が、生物多様性の積極的な保全に向けられ、同時に、その利用が多様性を持続させる範囲にとどまるようにするためには、長期的視点を持ち周到で想像力に富んだ戦略が求められます。さらに、その戦略を実行するための具体的な行動計画が示されることが必要です。

日本の生物多様性国家戦略のあゆみ

今回の改訂に当たって、日本政府は、「生物多様性国家戦略は、生物多様性条約及び生物多様性基本法に基づき、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する政府の施策を体系的に取りまとめ、その目標と取組の方向性を示したものです」としています(2012年7月6日記者発表資料)。
国が作成するものなので「政府の施策を取りまとめ」たものがベースになるのは当然ですが、 1995年に最初の国家戦略が立てられたときは、既存施策の羅列に等しいものでした。その後、これまでに3度の改定が行われる過程で、戦略は徐々に「目標と取組の方向性を示したもの」になってきました。特に、人口の絶対的減少・地方偏在・都市集中、超高齢化社会への移行による国土利用の大きな長期的変化を踏まえようとしている点は重要です。前回の戦略では、「人口の減少により国土の利用に余裕を見いだせるこれからの時代は、人と国土の適切なありかたを再構築する好機ともいえます。こうした中で、例えば、人が住まなくなることにより管理が行き届かなくなる土地については、自然の遷移にまかせて森林に移行させていくなど総合的な判断も含めて国土の将来あるべき姿を描いていくことが必要です」という記述も見られます(今回の改訂案でも維持)。また、今回の改訂案では、「平成23年3月に発生した東日本大震災を踏まえた今後の自然共生社会のあり方を示すこと」も目指されていますが、長期的な日本社会の変化を踏まえて従来の土地利用の単純な復元に慎重な姿勢を示していることは注目されます。
ただし、中長期的変化予測に基づいた施策転換へ向けた具体的な行動計画が欠けている点は依然として日本の戦略の限界となっています。

日本の生物多様性国家戦略の特徴的な問題点

問題は、これまで生物多様性に大きな負荷を与え続けてきた日本の「積み残し課題」に対して「新たな施策」「既存施策の修正」が薄いという点です。
条約で議論される新しい課題への対応が精一杯で(それも迅速で万全なものとは言えませんが)、「積み残し課題」へ振り向き、切り込む対応は弱いものでした。
「既存政策で対応してきた」という趣旨なのでしょう。しかし、多様性が減少し続けている現実に対して建前を言っても始まりません。「積み残し課題」解決のための新たな施策、既存施策の修正の道筋とタイムスケジュール設定が課題です。
この「積み残し課題」とは何かですが、実は、生物多様性条約が国家戦略に求めていることに関連しています。条約は次のように定めています。
  「特にこの条約に規定する措置で当該締約国に関連するものを考慮したものとなるようにすること」(第6条(a))
  「(可能な限り、かつ、適当な場合には)関連のある部門別の又は部門にまたがる計画および政策にこれを組み入れること」(第6条(b))
最初の点、つまり、日本に「関連するものを考慮したもの」というのは、世界の自然資源の大量輸入、大量消費の抑制戦略を盛り込んだものを意味するというべきでしょう。日本は、木材、漁獲物、様々な野生生物製品を大量に輸入し、また日本発祥の多国籍企業の活動、エネルギー・食料その他の資源確保のために世界の生物多様性に莫大な負荷をかけている有数の国だからです。
次の点、つまり、「関連のある部門別の又は部門にまたがる計画および政策にこれを組み入れること」というのは、環境保全を目的としない、土地利用全般、農地整備、都市整備、社会資本(道路、港湾、空港など)整備などに関する計画に、生物多様性の保全・持続可能な利用を組み入れることを意味しています。
これらの要求に対する対応が、これまで(ないとはいいませんが)芳しいものではなく、「積み残されてきた」といえます。

生物多様性国家戦略2012(第5次)の特別な意味

今回の改訂では、2010年10月に開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で採択された戦略計画2011-2050(愛知目標)の成果を踏まえた見直しが求められています。
愛知目標では、「2050年までに、生物多様性が評価され、保全され、回復され、そして賢明に利用され、それによって生態系サービスが保持され、健全な地球が維持され、全ての人々に不可欠な恩恵が与えられる」ことをビジョンとしています。
このビジョンのもと、「生物多様性の損失を止めるために効果的かつ緊急な行動を実施する。これは、2020年までに、回復力のある生態系と、その提供する基本的なサービスが継続されることが確保され、それによって地球の生命の多様性が確保され、人類の福利と貧困解消に貢献する」とされています。この2011-2020年の間に行なうべき効果的かつ緊急な行動が5つの大項目、20のターゲットに表現されています。
今回の改定案は、この愛知ターゲット達成に向けた「ロードマップとしての役割を担います」とされています。
愛知ターゲットという「世界目標」の縛りができたことで、この間新たに世界標準とされた課題(例えば海洋保護区の設定など)への対応が積極化するとともに、これまでの「積み残し課題」を一掃するような変化が期待されたのです。

JTEFの意見のポイント

結論として、今回の改定案は「愛知目標の達成に向けたロードマップ」の章が設けられた以外は「行動計画」の章を含めて小規模の改訂にとどめられています。
「積み残し課題」は、(前回の戦略から引き続き)総論部分で概ね認識されているものの、刷新的な施策展開を計画するものとはなりませんでした。
そこでJTEFは、2点を中心に改訂案に意見を述べました。概要は次のとおりです。

1 世界の生物多様性に日本が与え続けている負荷を減らすこと
【シンボル:トラ、ゾウ】
国際的取組の推進が、国の国際的責務であることおよび日本の国民の暮らしと経済発展が地球規模の生物多様性に依存していることを明確にするよう求めています。
世界の森林に対する影響については、多様で健全な国内の森林の多面的機能の発揮を図りつつ、国外自然資源に対する需要を低減するための国内木材生産機能を高めること、外材の輸入と国内流通に対する規制を強めるための施策を求めました。
世界の野生生物種に対する影響については、ワシントン条約による国際取引の規制の実効性を高めるため、国内取引の規制を強化し、個々の個体等の出所を追跡し、背後にある違法な取引を捕捉できるようにするための施策を求めました。

2 生物多様性保全を、土地利用にかかわるすべての計画制度に具体的に反映させること
【シンボル:イリオモテヤマネコ、ツキノワグマ】
生態系ネットワーク(エコロジカルネットワーク)をランドスケープ単位で維持・形成していくこと、つまり、そこで起こりうる様々な土地利用(農地や宅地などの整備、森林、河川、海岸などの管理、漁業の調整、各種インフラ整備など)を計画段階で調整し、ランドスケープ内の生態系が丸ごとその自然な営みを続けられるようにすることとし、それを緑の基本計画、河川整備計画、農業振興地域整備計画など各種土地利用等の計画の計画事項とすることを求めました。
とくに、今後の人口減少により管理の維持発展が困難と見込まれるために自然生息地に還すべき土地について、上記土地利用にかかわる国の計画に位置づけることを求めています。
また、一定の土地を自然生息地に還していく過程で、野生動物とその生息地周辺に暮らす人々との間のトラブルが深刻化するおそれがあります。そこで「棲み分け」のための緩衝帯の整備及び物理的障壁の設置等の措置が必要となります。そもそも野生生物の適正な保護と管理は、土地利用と野生生物の生息地利用との関係を調整することであり、一方(野生動物)を抹殺することではありません。このことと関連して、ツキノワグマなど有害捕獲数の年変動が大きく捕獲数が多い年は相当量にのぼることがある種については、捕獲許可実績が捕獲数が少ない年の実績を大きく上回らない慎重な捕獲許可の確保及び捕殺に代わる学習放獣の積極的実施を、地方自治体と連携して推進することも求めています。

生物多様性国家戦略の改定(案) に関する意見(パブリックコメント)(PDF)


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