2012年度事業報告:北東インド編(2012年11月1日~2013年10月31日)
アジアゾウの保全プロジェクトを展開している北東インドは、国内で南インドに次ぐゾウの楽園です。カジランガ国立公園を含む一帯には約2000頭のゾウが季節移動しながら暮らします。また、カジランガで繁殖し分散するトラの重要な生息地でもあります。
カルビ・アングロン自治県はその森林帯にすっぽりと収まっており、しかも大部分が依然として森林に覆われています。
自治県がこの先、生物多様性を重視した地域開発を行なっていくのか、そうでないのかがゾウやトラやその他の生きものの行方を決めると言っても過言ではありません。そこで、重要となるのは、自治県政府と地域の人々に森林生態系の維持とそれを支える野生動物の保全に強い理解を持ってもらうことです。そのためには、次のことが必要です。
北東インド・アジアゾウ保全プロジェクト
パートナー:インド野生生物トラスト(WTI)【目的】
カルビ・アングロン自治県内のゾウの生息地確保・密猟防止
【概要】
-ゾウがコリドーから外れて水田へ侵入することを電気柵やゾウの嫌う柑橘類の生け垣等で防止し、村人によるゾウに対する報復行動を防ぐための諸活動を行う。
-コリドー内外の村による森林に対する悪影響・ゾウとのを防止するため、村の自主移転の支援、コリドー周辺の村による生息環境かく乱・ゾウに対する報復を防止するための諸活動を行なう。
-移動獣医サービス(密猟者による攻撃、村人とのトラブル、さまざまな事故に対する野生動物の救護)
-パトロールを行うレンジャー向けのトレーニング・ワークショップ開催、パトロール
【活動実績】 人件費除く支援額その他経費(予算額):2,062,198円(2,800,000円)
【人とゾウとのトラブル防止プロジェト】
・人とゾウとのせめぎ合いの実態を調査:カジランガ国立公園からカルビ・アングロン北部にかけては「ゾウ保護区」(法律上の根拠はない)に選定されており、アソム州の中でもゾウの存在度が高い区域です。その反面、この区域は村人とゾウとのせめぎ合いがもっとも激しいところになっています。2012年度は、その実態調査を改めて実施しました。-2001~2013年の人身被害:死亡者の出なかった年は13年間でわずか3年だけ。10年間は毎年死亡者が出ていました。2004年には7名の死傷者が出ています。JTEF/WTIがこの区域でプロジェクトを開始した2008年以降はそれまでと比べ、死傷事故は半分以下に減少しています。
-2008~2012年の農作物被害:JTEF/WTIは、2008年以来、もっともせめぎ合いの厳しいシロニジャン地域でプロジェクトを実施してきました。シロニジャン内の4つのエリアで農地の被害面積を調査したところ、おおむね各エリアで被害面積は減少しています。その理由の一つは、JTEF/WTIのプロジェクトとして、農地に現れたゾウへの対処について村人へ普及啓発を行ったこと等が関係していると思われます。圧倒的に被害面積の大きいテョーキホラ・エリアについては劇的に被害面積が減っていますが、これはJTEF/WTIによる電気柵の設置が効果を発揮したためと考えられます。
ゾウに屋根や壁を壊された農家
・「エコ・バリアー」の設置:水田へのゾウの侵入防止策として効果を発揮している電気柵ですが、管理にコストがかかることをふまえ、より持続的な対策として着目したのが「エコ・バリアー」です。これは枝に長い刺を持った植物を農地の周辺に植栽するもので、南インドやオディシャ州で成功が収められています。カルビ・アングロンではシトラス(柑橘類)を試験的に電気柵に沿って、1.5m間隔で4kmにわたり植栽しました。成長には数年かかりますが、その効果検証をふまえて、さらなる植採を行っていきます。
エコ・バリアー(バイオ・フェンス)となる柑橘類の植採
・ラム・テラン村、カラパハル・ダイグルン・ゾウコリドーから移転決定:カラパハル・ダイグルン・ゾウコリドーは、保護地域間のゾウの移動(カジランガ国立公園からナンボル・ダイグルン野生生物保護区やガランパニ野生生物保護区へ)の移動路となっている森です。このコリドー内のやや開けた場所に2005年頃移転してきたラム・テラン村を、コリドー外へ移転してもらうため交渉が続いていました。そしてついに、6エーカーを超える土地を買い、カルビの伝統をつなぐモデル村としてラム・テランを讃え、敬意を表したうえで、全村人の移住が行われることになりました。その後全18世帯が農地も受け取ります。移転先はゾウのコリドーへの負担を減らす目的でこのコミュニティープロジェクトを実施しているサル・クロ村の近くです。2013年5月24日には、25世帯からなるサル・クロ村自治会会長とWTIで土地売買の契約が結ばれました。
ラム・テラン村の人々と
・ゾウコリドー周辺の村出身の若者を、ゾウの森を守る大使に:2012年に高等学校の卒業試験に合格した2人の若者(男女一人ずつ)に「フレンズオブエレファント賞」を授与しました。2人はコリドー周辺のラム・テラン村とサル・クロ村の出身です。彼らが地元の村でゾウの森を守ることの意味と実行すべきことを村人に浸透させていってくれることが期待されています。
・夜間に田畑からゾウを追い払うためのサーチライト配布:2013年7月、人とゾウとのせめぎ合いが激しいシロニジャン地区とカラパハル・ダイグルン・ゾウコリドー周辺の村の代表者に、サーチライトが配布され、ゾウの追い払い方について説明会を行いました。ゾウが田畑に来るのは夜間が多いですが、一歩間違えると人身事故に発展するため、追い払いは慎重に行うべきことがWTIとアソム州森林局から説明されました。
・圧力鍋を使って森から伐り出す燃料木の量を減らそう:ゾウコリドー周辺の3つの村で、60個の4リットルサイズ圧力鍋を配布、使い方の説明会が行われました。快適な炊事ができると同時に、煮炊きに使う燃料木の量が減ることが期待されます。
・ゾウコリドー周辺の290世帯へお米を贈る:2012年12月、ゾウコリドー周辺の20村290世帯へ合計7,250kgのお米を贈りました。厳密な被害への金銭補償ということではなく、ゾウへの報復心を和らげることが目的です。
・「1日診療所」を開設:ゾウコリドー周辺の3つの村のために「1日診療所」を開設、160名の村人の検診・治療を行いました。また、モンスーンの季節にはマラリアが蔓延するので計200帳蚊帳を配布しました。
【移動獣医プロジェクト】
ベンガルヤマネコ(イリオモテヤマネコと同種)の子ネコ
救急車として活躍するジープ
北東インド・トラ調査プロジェクト
パートナー:インド野生生物トラスト(WTI)【目的】
カルビ・アングロン自治県(アソム州)内のトラの生息状況を把握
【概要】
トラとゾウの生息状況調査
【活動実績】
人件費を除く支援額その他(予算額):北東インド・アジアゾウ保全プロジェクトの予算内で処理
ゾウの移動によって竹林がトンネルのようになったゾウ道に沿って痕跡を確認する調査員
トラの足跡
オレンジ印:トラの痕跡
白~濃紺印:ゾウの存在度(色が濃く、印が大きくなるほど存在度が高い。)