インド、EUによる中国のトラ・ファームの修正案を否定

ネハ・シンハ記 オンライン投稿 2010年3月23日

 ニューデリー:インドは、欧州連合(EU)による中国のトラ・ファームを段階的に廃止するという現存の決定に対する修正案の提案に反対した。

 現在ドーハで行われているワシントン条約(CITES)の締約国会議で、トラおよびその他附属書Ⅰ掲載の大型ネコ科動物の取引に関する欧州連合の決議案が議論された。

 その中で、欧州連合は、トラ生息国が野生生物犯罪のデータベースを作成するために、EU-TWIXデータベースシステムに従うよう提案した。しかし、この提案をインドは、トラ生息国、つまりアジア諸国とともに話し合われることなく提示されたと考えた。

 それに加え、インドは、野生生物の取引を監視する最高組織であるCITESが、トラの飼育繁殖事業は野生のトラの保護に「資する限りの」レベルにとどめておく、つまり、飼育トラの繁殖をできる限り最小限に抑えようにと中国に圧力をかけた前回の決定に手直しを加えることを望んでいない。

 また、前回のCITES締約国会議でインドによる発言の結果、中国はトラ・ファームをどのように閉鎖したかを国際的組織に報告するよう決定がなされていた。それにもかかわらず、この報告は行われていないとインドは指摘している。今年の会議において、インドはインドにおけるトラの状態は危機的だと述べ、ほかのトラの生息国にそれぞれがトラの保護に責任をもつことを求めた。

「トラ・ファームの閉鎖を報告するように求めてから3年がたつが、一歩も前進をしていない。」とインドの代表団は言った。「飼育されている頭数を野生のトラの保護を支援するレベルに制限するということにはそもそも遺憾な点が多い。これは大きな懸念材料である。我々の善意に応えてない。」とインドは述べ、国内にも、村人によるトラの報復的殺害が大問題となるなど、トラの保護に関する問題があると付け加えた。

 Indian Expressにインドの代表団は、中国のトラ・ファームの段階的な閉鎖について報告を望んでいると述べた。

インドとネパールがトラの保護について会談

 ニューデリー:環境大臣のジャライム・ラメシュは、ネパールの環境大臣のディパック・ボーラと月曜日に会談し、トラの保護におけるインド・ネパール間のトラの保護、およびインド・ネパールの国境に関する情報交換のしくみを構築するロードマップについて議論した。トラの密猟を調査するため、インドとネパールの役人によって、月例会談を定期的に行うことが提案された。
(翻訳協力 瀧口暁子)

【JTEFのコメント】
 トラは、CITESが発効した1975年以来、附属書Ⅰに掲載され(アムールトラのみ1987年より)、商業目的の国際取引は禁止されてきました。それにもかかわらず、虎骨を中心とした漢方薬目的でのトラの身体部分の需要は根強く、また毛皮の需要も絶えることはありませんでした。

 そこで、CITESでは第9回締約国会議(CoP9)(1994年、米国)で決議9.13を採択し、トラの身体部分の違法な国際取引の効果的な抑止策のほか、生息国における保全努力と、消費国における消費需要抑制・国内取引規制が求められました。CoP10(1997年、ジンバブエ)ではその決議が強化され、消費国においてトラの身体部分を含むと表示された製品を国内取引規制の対象とするための措置を求めるほか、関係国に事務レベルとハイレベルの使節団を送り、事態の改善を推進する試みが行われました。

 当時日本では虎骨やトラのペニス、それらを含有した薬や食品の国内取引が規制されていませんでした。そこで1999年に事務レベル、ハイレベルの使節団が相次いで来日し、その成果として、2000年に「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律施行令」が改正され、国内取引の規制が実現した経緯があります。中国は、当時すでに虎骨入りの漢方薬の国内販売は禁止していました。しかし、現実に国内での入手は容易で、しかも日本や欧米で中国製の虎骨入り漢方薬や酒が売られているという状況でした。そこで、規制に基づく取締りの強化や、虎骨等の需要の減少などが使節団により求められました。

 その後、CoP12(2002年、チリ)では、決議9.13が決議12.5にリニューアルされ、その対象がトラだけでなくすべての附属書Ⅰ掲載のアジア大型ネコ科動物(インドライオン、ヒョウ、ユキヒョウ、ウンピョウ)に拡大されることになりました。

 CoP13(2004年、タイ)ではチベットでのトラの毛皮需要の急上昇なども問題になるとともに、タイのトラ・ファーム(観光用の見せ物施設)から中国の施設への100頭ものトラの輸出が話題になりました。この事例は、その後の中国トラ・ファーム問題を予感させるものだったといえます。

 CoP14(2007年、オランダ)では中国でのトラ・ファーム問題が大きな議論になりました。中国は依然として虎骨、それを含有した漢方薬の国内取引を禁止していますが、トラ・ファームでは死んだトラの虎骨等が廃棄されずに備蓄されています。そのことから中国が近い将来国内取引を解禁するのではないか、さらにはその国際取引解禁をCITESに提案するのではないかという推測が提起されたのです。中国は、国際取引は考えていないことを繰り返し主張しています。ただし、国内取引については現時点で解禁はしないとしつつ、適切な在庫と流通の管理が整えば、生物資源の持続可能な利用は否定されるべきでないと主張しており、国内需要を積極的に低減して国内マーケットを消滅させようという考えはないようです。この姿勢が、インドなどトラの生息国の反発を買い、激しい議論が戦わされました。その結果、次の決定14.69が別に採択されました。
【決定14.69】
トラを繁殖させる、商業的規模にある集中的な事業が行われている締約国は、飼育下個体数を、野生のトラの保全に資する限りのレベルに制限する方策を実施すべきである。
なお、それらのトラは部分派生物の取引のために繁殖させられるものであってはならない。

 今回のCoP15(2010年、カタール)では、EUが決議12.5のさらなる改正を求めました。重要な点のひとつは、継続的にトラの商業的繁殖事業をしばるために決定14.69の内容を決議12.5に組み込む提案です(「決定」は、「決議」と異なり、有効期間が次の締約国までであるため)。「商業的規模」「集中的な事業」など意味や範囲をめぐって争いが起きかねない文言の解釈も示されました。いうまでもなく、中国などによる(近年はベトナムやラオスなどでもトラ・ファームが経営されています)決議逃れを防ぐためです。EU提案では、他に国際協力による違法取引取締り強化を実効化するために、EUが開発し、域内で運用しているシステムのような野生生物違法取引のデータベースを、アジア大型ネコ科動物の違法取引に適用することも提案していました。

 これに対して、CITES事務局は、(国際取引でなく)国内取引の規制を締約国に求めることは、CITESの規制を超えるものだと指摘しました。中国はもちろんその点を強調、インド、ミャンマー、ベトナムなどの生息国もこれを支持しました。最終的には、決議への組み込みはせずに、従来と同じ内容の決定を維持するという結論になりました。改正されない限り恒久的な効力を持つ決議と比べ、決定は不安定ではあります。しかし、内容が後退するよりは、決定の形で維持していくことがましな選択といえます。インドなどは中国のトラ・ファームには批判的ですが、決定の維持を獲得目標にして、その確実な実行を求めようとしたのかもしれません。

 いずれにしても、トラ・ファームでは、虎骨酒などの違法取引の巣窟であることが海外のNGOによって報告されていますし、その存続自体が将来の虎骨取引開始の可能性をにおわせて虎骨需要を刺激し続けます。トラの存続にとってトラ・ファームの廃止が必要です。トラの絶滅のおそれは高く、一刻の猶予も無いのです。