トラ

アジアだけに生息する野生のトラ。古来、強さの象徴とされるトラは今や地球上に2,200~3,200頭(繁殖可能な成熟個体の数)。絶滅の象徴となってしまいました。獲物を追いかけ広く移動するトラには豊かな森が必要です。トラを守ること、それは森を守ること、地球環境と人間を守ることに繋がります。

プロジェクト

1.中央インド・トラ保全プロジェクト

現地パートナー:Wildlife Trust of India(インド野生生物トラスト, WTI)

2017年からトラが移動に利用している中央インド、マハラシュトラ州ティペシュワール野生生物保護区で、密猟-違法取引を撲滅し、村人とトラとのトラブルを予防するための活動を行っていきます。この保護区内外には5-10頭のトラが暮らしていますが、これまでは国からも民間からも十分に保護の手が差し伸べられなかった場所です。JTEFが担う保全活動の意義は、大きな団体が支援していない小さいけれど重要な場所への支援を開拓することにあると考えています。今後レンジャーへのトレーニングなど保護区管理の基礎作りをするとともに、保全活動への住民参加の枠組みを作り保護区周辺をトラと人とが共存できる地域にしていきます。

https://www.wti.org.in/

2.トラと森を守る環境学習プログラム

子どもたちが野生のトラとその獲物である草食動物のいる環境について学び、トラを守ることが地球環境を守ることに繋がること、そのためには人間の1人1人が行動しなければならないことを理解し実感できるプログラムです。
その実践が「うえのトラ大使」。上野動物園、JTEF、上野観光連盟が連携して行った東京都台東区の小学生がトラの保全について他の人々に伝えられるようになるためのプログラムです(2014年1月〜2018年3月)。ワークショップでトラやその環境について学んだあとその成果を他の子どもたちにシェアするためのスゴロクを作り、それを動物園の来場者に説明しながら配ったり、近隣の小学校で生徒にトラのことを伝えたりしました。

3.マレートラ密猟防止プロジェクト

現地パートナー:MYCAT(マレーシア トラ保全連合)協力者:川西加恵氏

つい数年前まで500頭が生息していたといわれていたマレーシアのトラは、実はその半数の250頭しかいないことが明らかになりました。マレーシアではいまだにレストランで違法にトラの肉の料理が出されていたり、夜市で違法なのに堂々と売られていたりします。そこで、JTEFが支援するMYCATは毛皮や虎骨入り漢方薬、トラの身体部分の製品をなくすため、一般の人々から違法取引情報を集め取締り機関に伝えています。

トラの保全のためになされるべきこと

1.トラの生息地である森林パッチの環境悪化防止とその間の「渡り廊下」=コリドー確保

現在トラの危機をもたらしている脅威のひとつは、人間の土地利用による生息地破壊です。

現在トラの危機をもたらしている脅威のひとつは、人間の土地利用による生息地破壊です。
トラ本来の生息地である森林が、水田や油やし(オイル・パーム)プランテーションなどの農地、入植者の集落、金属や石炭の採鉱場に転換され、あるいは道路、鉄道、パイプラインなどによってズタズタに分断されています。特に第二次世界大戦後、かつてのトラの生息域は、トラが使える場所と、人間のせいで使えなくなった場所とのつぎはぎ(パッチワーク)状態になっていきました。

トラは狭い森林パッチ(断面)に押し込められ、さらにそのパッチは集落と放牧された家畜に取り囲まれました。林内に過剰な燃料木伐採の手が入り、大量の家畜が放牧されています。その家畜を襲ったトラは村人の怒りを買い、「害獣」として銃や毒によって違法に殺されてしまいます(20世紀には、ロシアや中国で大量のトラが報奨金付の害獣として合法的に大量殺戮されました)。

トラの保全のためになされるべきことのひとつは、生息地の確保です。

繁殖したトラを新天地に送り出している生息条件のよい森林パッチ(断片)を中心に、トラが生息するできるだけ多くの森林パッチで環境悪化を防止することが必要です。このような生息地確保は、保護区の中だけで達成されることはめったにありません。保護区は、広さや配置のあり方が十分といえないことが多いためです。

トラを長期にわたって存続させるだけの生息地確保は、もっと広大な地域を対象に、繁殖が行われたり分散してきた若トラを迎え入れたりする森林パッチ(保護区はこのような生息地の一部を囲んで指定されていることが多い)や、森林パッチが完全に切り離されないよう、森林パッチ間を「渡り廊下」のように行き来するための生息地を確保することが必要です。このような帯状の生息地(多くは森林)を、生物学的回廊=コリドーと呼ばれています。トラの「コリドー」としてもっとも重要なものは、トラが長年移動に使い続けてきた自然の森です。多少細長くて人が占拠する土地を縫うように伸びるような形でも、完全につながってはいない森が「飛び石」状に続いている状態でも、トラの「渡り廊下=コリドー」の役割を果たす可能性があります。ただし、餌となる動物がある程度豊かであることや人の活動による妨げが少ないことが条件です。長期の取組みが必要な対策ですが、これに失敗すればトラが長期にわたって生き延びる道は絶えることになります。

2.トラとその餌動物の密猟・違法取引の撲滅

トラの危機をもたらす脅威のもうひとつは、商業目的の密猟です。歴史的にはインド植民地時代にイギリス政府の役人とそれに追随するインドの地方有力者がトラのスポーツ・ハンティングに興じ、膨大な数のトラが殺されたことがよく知られていますが、それが許されなくなった後は密猟が大きな問題となっています。

密猟の主な狙いは、毛皮や、漢方薬の原材料にする骨にあります。虎骨入りの漢方薬の主な生産国は中国と韓国ですが、国際的非難の中、両国でも現在は虎骨入りの漢方薬の販売が禁止されるに至っています。しかし、虎骨に対する需要には根深いものがあり、中国は国内販売解禁の機会をうかがっています。虎骨の違法取引事例は世界各地で後を断ちません。日本でも以前は中国などから輸入した虎骨入り漢方薬を合法的に販売していましたが、2000年4月から禁止しています。

犯罪組織も絡んだ国境を越える虎骨や毛皮の違法取引を撲滅するには、ワシントン条約の規制をベースに、トラの生息国、消費国などの間の密な国際協力が不可欠です。密猟を助長することになる消費需要をなくすためには、特に消費国の努力が重要になります。

タイガーファーム

野生のトラが減少するに従い、中国ではトラを商業目的で繁殖させるタイガーファームが盛んになりました。そこでは5000頭〜6000頭ものトラが虎骨の漢方薬利用のために飼われています。中国だけでなく、タイやラオス、ベトナムにも繁殖施設があります。中国は野生のトラを守るために繁殖施設のトラの骨の販売を再開すべきだと主張していますが、そのような試みは虎骨の需要全体を活発化させ、「天然もの」を欲しがる人たちをかえって増やしてしまうおそれがあります。

獲物となるシカやイノシシの過剰な狩猟・密猟

トラの危機をもたらす原因のもうとつは、トラの獲物となるシカやイノシシの過剰な狩猟・密猟です。村人が生活のために行う場合もありますが、商業ベースの取引になると規模が大きくなり、密猟される数も飛躍的に増えていきます。

トラの餌動物の密猟・違法取引を撲滅していくためには、生息地の現場における密猟・違法取引の取締りが徹底されるとともに、密猟に関与している地域社会の意識や行動を変えることが必要です。特に地域への働きかけに当たっては、生活向上の支援と環境教育を組み合わせた、その地域社会にフィットしたプログラムを用意して、ある程度の時間をかけて実行していく必要があります。