ゾウ

ゾウは、地上最大にしてアジアとアフリカの自然を代表する動物、というだけでなく生態系の鍵となる生きもの。その大きな体で木を倒し、森と草原とのモザイクを作り出すと同時に、広範囲を移動しながら種子をたくさん含むフンを落とし新たな森を育くみます。ゾウを保全することは広範囲に及ぶ生態系を保全することになります。

プロジェクト

1.北東インド・アジアゾウ保全プロジェクト

現地パートナー:Wildlife Trust of India(インド野生生物トラスト, WTI)

約4万7000頭とされるアジアゾウのうち約2万7000頭(全体の約60%)が生息するインドで3番目にゾウが多いのが北東インド地域です。本プロジェクトは、そこに位置するアッサム州カルビ・アングロン自治県で実施しています。

アジアゾウが生息地間のコリドー(まとまったサイズの森林生息地どうしをつなぐ帯状の森)の安全な行き来を確保するため、その内外で発生するゾウと人とのトラブルを防止する活動を行います。具体的には、農地と森の間での侵入防止フェンス(電気柵やエコ・バリアー:長いトゲのある植物の生け垣)の設置管理、けがをしたり病気になったゾウのレスキュー、コリドー内外のゾウと人とのトラブルが多い村で暮らしの支援と環境教育を組み合わせたプログラムを実施します。

https://www.wti.org.in/

2.国内象牙市場閉鎖プロジェクト

協力団体:Environmental Investigation Agency(EIA, 環境調査エージェンシー)

毎年2~3万頭のアフリカゾウが象牙目的の密猟で殺される中、ワシントン条約では象牙の輸出入の禁止に加え、各国に国内の象牙市場を閉鎖するよう求める決議を採択しました(2016年10月)。そこでJTEFは、日本の象牙市場が現実に閉鎖状態となるよう、政府に対しては条約決議を守って象牙販売を禁止するよう求める政策提言を、小売業者に対しては自主的に販売を中止するよう求めるキャンペーンを、消費者に対しては象牙を買わないよう求めるキャンペーンを行います。また、このような活動の基礎とするために、日本の象牙市場とそこで起きている違法取引の実態、日本による象牙市場管理の実効性に関する調査研究を行っています。

https://eia-global.org/

ゾウの保全のためになされるべきこと

絶滅のおそれのある野生生物を選定する「レッド・リスト」(国際自然保護連合IUCN作成)では、アジアゾウは「絶滅のおそれが非常に高い」とされる種のランク(EN (Endangered))に、アフリカゾウは「絶滅のおそれが高い」とされる種のランク(VU (Vulnerable))に選定されています。

1.ゾウの生息地確保

ゾウ本来の生息地である森林や草地が、水田や油やし(オイル・パーム)プランテーションなどの農地、入植者の集落、金属や石炭の採鉱場に転換され、あるいは道路、鉄道、パイプラインなどによってズタズタに分断されています。その結果、ゾウが使える場所と人間が改変したために使えなくなった場所とがつぎはぎ(パッチワーク)のような状態になっています。ひどい場合には、村と農地に取り囲まれた小さな森の断片に閉じこめられた「ポケットの中の群れ」のようになり、やがては消滅してしまいます。

押し込められた狭い森林の断片のすぐ外側は農地であるため、栄養価の高い農作物に誘われて農地を襲うゾウも増えます。ときには村人に死傷者が出ることもあります。ゾウは村人の激しい怒りを買い、ゾウの保全に対する地域の理解は薄れます。報復的な密猟もひんぱんに起きます。

ゾウの生存のためには、必要な生息環境(森林、草地、水辺など)が備わった広い生息地が連続している必要があります。ゾウの個体群(地域的なグループ)の長期にわたる生存を考えれば、数千平方キロメートル(東京都がおよそ2千平方キロメートル)以上の面積の土地が必要といわれています。生息地破壊がさらに悪化すれば、ゾウに未来はありません。ゾウの生息地を確保するためには、広大な地域を対象にして、その中でゾウの生息地の確保と人間の土地利用を計画的に調整していく必要があります。

まず、ゾウの重要な生息地となっている区域はできるだけ保護区に指定した上で、内部の生息環境の悪化を防止しなければなりません。

一方、ゾウが広大な生息地を必要とする以上、そのすべてを保護区で囲うことは不可能です。そこで、ある程度の広さのある生息地パッチ(保護区に指定されたものも含む)どうしを、人の占拠する土地を縫うようにしてつなげることが重要となります。そうすれば、ゾウがより広い生息地を使うことができます。生息地パッチどうしを「渡り廊下」のようにつなぐ帯状の生息地を生物学的回廊=コリドーと呼んでいます。ゾウは長い距離を移動する動物なので(特に季節移動)、生息地パッチをコリドーでつなぐことは特に重要です。アジアゾウの実例では、コリドーの幅は0.5~1km、長さは5km未満がのぞましいとされています。あまり狭かったり、長すぎたりすると、人間の利用する土地に出てしまって農作物被害などが起きるリスクも増します。コリドー内の植生は、接続する生息地パッチと同じものであることが多いようです。
保護区を十分広く確保でき、コリドーも十分機能している場合はよいでしょうが、そのようなことはむしろまれでしょう。そこで、保護区外となった生息地(とくに保護区に隣接する場所やコリドーの内外)においても、ゾウを完全に排除するのではなく、土地利用を調整して(たとえば森林の伐採方法や、道路・パイプライン等のインフラ整備方法にゾウの生息に配慮した条件を付けるなど)ゾウとの共存をはかる必要があります。こうした調整に対する地元の理解を得るためにも、ゾウによる人身被害や農作物被害を予防するための対策、一定の被害を受忍する見返りとなる暮らし向上に対する支援、保全に関する教育普及活動を組み合わせて実施することが重要となります。

2.象牙目的の密猟・違法取引の撲滅と国内象牙市場の閉鎖(象牙販売禁止)

密猟の主な狙いは皮や肉ではなく、国際的なブラック・マーケットで高額で取引される象牙です。とくにアフリカゾウは、1970年代後半から1980年代にかけての象牙目的の密猟が主な原因となって1980年代の10年間で134万頭から62万5000頭へと半減してしまいました。その後、象牙の国際取引が禁止されたことによって、いったんは密猟・違法取引は息を潜めます。しかし、日本など一部の国々が象牙取引再開を強く求め続けたためか、違法業者たちが象牙の国際市場を見限ることはありませんでした。2006年までには象牙目的の密猟が再び増加しはじめ、2010年から現在(2016年)まで、年間2万頭を超える規模でゾウが殺され続けています。

1990年以来、象牙の国際商業取引はワシントン条約で禁止されています。しかし、2006年から現在にかけて象牙の違法取引とそのためのゾウの密猟が激化しました。象牙の需要がある限り、儲けに目がくらんだ違法行為は耐えることがありません。さらに、国内での合法取引を認めている国があると、違法な象牙を合法品に紛れ込ませてロンダリング(洗浄化)することが容易になり、ますます違法取引がはびこります。象牙の密猟と密輸を撲滅するためには、世界各国で象牙の販売を禁止することが必要です。幸い、ワシントン条約の締約国会議は、2016年に関係各国の国内象牙市場閉鎖を求める決議を採択しました。

ところが、「我が国の国内象牙市場は決議の閉鎖勧告の対象外である」というのが、日本政府の公式見解です。政府は、1989年の象牙の国際取引禁止後も、自国象牙産業のための原材料調達を一貫して最優先してきました。この姿勢が、インターネット取引によって国内象牙市場が活発化しているにもかかわらず、さらには象牙の密輸入・密輸出が継続し、国内違法取引に至っては著しい増加傾向がみられるにもかかわらず、2016年の国内象牙市場閉鎖決議の遵守を拒絶し、しかも象牙取引管理の深刻な抜け穴への対処を避け、むしろ象牙市場・象牙取引のさらなる活性化を図るという一連の行動となってあらわれています。このような状況では、日本の国内象牙市場が違法象牙の隠れ蓑として利用されるリスクは、ますます増大する一方です。日本の市場を条約決議に則して緊急に閉鎖することが求められています。