イリオモテヤマネコ

1965年に発見されたイリオモテヤマネコの推定生息数はわずか100頭。ネコ科動物の生息地としては世界一狭い西表島における食物連鎖の頂点に立ちます。イリオモテヤマネコが野生の姿のまま生き続けられることが、島に生きる人々の暮らしと自然との共存の証しとなります。

イリオモテヤマネコの親子

道路上に出てしまった母ネコと2頭の仔ネコは。。。

プロジェクト

1.イリオモテヤマネコ交通事故防止プロジェクト

イリオモテの冒険

観光客ドライバーへの教育普及のために製作したビデオ。
後半に、ヤマネコが実際にどのように道路に出てくる映像が登場します。
十分な注意を払わないと、ヤマネコに接触してしまう危険があることがわかります。

西表島に在住するパトロール員が、イリオモテヤマネコの路上出没、交通事故が多発する19:30~22:00の時間帯に夜間パトロールを実施しています(通年)。パトロール時には、時速20キロほどで走行し、通行車両に注意を呼びかけるとともに、交通量、速度調査も合わせて行っています。繰り返しヤマネコが路上に出ている情報を得れば、その区間を集中的に緊急パトロールし、路上に出ているヤマネコは脅かし、道路が怖い場所であることを学習させて道路の外に追い返します。それ以外の生きものも生死問わずできる限り道路外に出します。ヤマネコを路上に誘引する原因にもなるためです。また、運転者が路上のヤマネコを発見しやすくするために、路肩の草刈も行っています。

イリオモテヤマネコ交通事故件数

2. イリオモテヤマネコ生息地保全プロジェクト

西表島はネコ科の野生生物が生息する島としては世界最小。僅か289㎢しかありません。イリオモテヤマネコの生息域内保全にとって生息地を守っていくことはとても重要になります。西表島のそれぞれの場所がイリオモテヤマネコの生息地としてどのような意味を持っているかを踏まえ、開発事業(観光のための施設建設や農地整備のための土地改良等)がヤマネコの生息に及ぼす影響を評価し、適切な対応を関係機関に提言しています。また、ヤマネコの生息地に入り込む「エコツアー」の総量規制のあり方、ヤマネコの観察・撮影に対する規制のあり方について提案を行っています。

3.「ヤマネコのいるくらし授業」プロジェクト

西表島の子どもたちをイリオモテヤマネコとの共存のために行動する人に育てる教育を定着させます。2011年度から西表島の全小中学校を対象にした出張授業を行い、2016年度からは、学校の先生が主体となった授業が継続的に行われていくよう、竹富町教育委員会と協力して「ヤマネコのいるくらし授業」教員研修会を毎年開催。授業メニューの提供や、教材づくりのサポートも実施しています。

イリオモテヤマネコの保全のためになされるべきこと

イリオモテヤマネコは環境省レッドリストで「ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの」(絶滅危惧1A類)に選定されています。法律では文化財保護法に基づく国の特別天然記念物、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律に基づく国内希少野生動植物種に指定されています。イリオモテヤマネコの危機をもたらす原因として、以下の3つがあげられます。

1. 交通事故防止対策

西表島には唯一の幹線道路として、南東端から海岸線に沿って北岸を通り北西部に至る県道があります。イリオモテヤマネコの重要な生息地のある低地部を貫いて走るこの道路は、イリオモテヤマネコの行動圏内を貫通し、やむなく路上を移動するヤマネコの交通事故を引き起こしています。

1978年から2017年までの40年間で79件の交通事故が報告され75頭のイリオモテヤマネコの死体が回収されています。これは生息数が少なく絶滅にひんするイリオモテヤマネコにとっては無視できない数です。しかも、交通事故は全体に増加傾向にあります。2016年はもっとも事故の多い年となり、7頭の交通事故が発生しています。

交通事故防止対策には、イリオモテヤマネコが道路上に出ることなく海側と山側を行き来できるようにする道路構造上の対策と、制限速度40km/hの県道を走る運転者に注意を促し路上のヤマネコとの接触を回避させる対策があります。

道路構造上の主要な対策としては、すでに沖縄県によって道路の下に人が腰をかがめて通れる程度の小トンネル(アンダーパス)が、長さ53㎞の県道に123か所も設置されています。道路が高架になっている個所もいくつかあります。それでも交通事故は増加し続けました。そこで、道路に沿って侵入防止フェンスを試験的に設置することでヤマネコを路上に出さずアンダーパスを通らせる試みが環境省や県によって行われました。これには一定の効果があることが認められましたが、ヤマネコが出没する範囲を広くカバーすることは予算上無理、フェンスを仮設にしてヤマネコの出没に応じて移動する方式も管理の手間が膨大で無理ということで実用化は容易ではないようです。そこで運転者に対する効果的な注意喚起の手法が改めて問われる状況になっています。

2. 土地利用におけるヤマネコの生息地に対する配慮

イリオモテヤマネコがもっとも高い密度で生息するのは、沢や湿地林が豊かな低地部です。しかし、人間が様々な土地利用を展開するのもこの場所です。西表島に暮らす人々にとっては宅地や道路が必要です。もともとの基幹産業である農業用地の整備もここで行われてきました。近年主要産業となった観光業との関係では、リゾート施設の開発も行われています。こうした土地利用がイリオモテヤマネコの生息地内で行われると、イリオモテヤマネコの生息環境が悪化し、やがてはそこにあった行動圏を放棄せざるを得なくなります。

農地整備、リゾート開発、宅地開発など西表島低地部における土地利用は、法律の手続きに基づいて行われるだけでなく、イリオモテヤマネコの重要な生息環境に悪影響が及ばないよう配慮して慎重に計画・実施される必要があります。そこで土地利用に関する権限をもっている行政機関が、科学的で具体的な根拠に基づき、率先してヤマネコのために必要な配慮を行うことが求められています。

3. 観光客の入り込みによる生息環境のかく乱の規制

ヤマネコの重要な生息環境である沢や湿地林に入り込むようなツアーが増えていることが 懸念されるようになっています。あまり人が入らなかったところに頻繁に人が行き来することでイリオモテヤマネコの生活が妨げられるおそれがあります。また、大勢の人の踏みつけなどによって植生をだめにしたり、土壌が崩れたり、沢が汚染されるとイリオモテヤマネコの餌動物の生息にも影響が及ぶおそれもあります。
世界自然遺産登録の3年後には観光客数が登録前の2倍である70万人に達すると予測されており、観光利用はイリオモテヤマネコにとってますます大きな脅威になりつつあります。

イリオモテヤマネコの重要な生息地であり、壊れやすくもある沢や湿地林などへの入り込みを悪影響のない範囲にとどめる必要があります。そのためにはそれぞれのポイントに入る観光客の総量規制を行うことと、立入りが許された観光客の行為(指定された遊歩道からはみ出さない等)の規制を行うことが必要です。また、イリオモテヤマネコの生息地を放棄したり、逆に人馴れすること(その結果、警戒心無く路上に出て事故にあい易くなる)を招くような観察行為を規制することも必要です。