ゾウとその保全

ゾウとその保全について

ゾウの分類

ゾウは、アジアゾウ属のアジアゾウ(Elephas maximus)、アフリカゾウ属のアフリカサバンナゾウ(Loxodonta africana)およびマルミミゾウ(アフリカシンリンゾウLoxodonta cyclotis)の3種に分類されています。アフリカのゾウについては最近まで2種に分けるべきかどうかの論争が続いていました。

ゾウの形態

アジアゾウは、最大級のオスで体重5,400kg、肩高(肩までの高さ)3.2mに達します。メスは体重3,300kg、肩高2.6mです。アフリカサバンナゾウのオスは最大級のもので体重6,000kg、肩高3.9m、メスは体重4,150kg、肩高2.5mです。マルミミゾウは、一般にサバンナゾウよりも体が小さいです。

アジアゾウの背中は凸型に盛り上がり、後ろ脚の方へ向かってすとんと下がっていますが、サバンナゾウの背は、鞍をのせるやすそうな凹型になっています。マルミミゾウは、アジアゾウと同じで、後ろ脚の付け根よりも背中の方が高くなっています。

アジアゾウの鼻は表面がなめらかですが、サバンナゾウの鼻の表面は、横方向のしわが深いです。アジアゾウの鼻先の突起は1つですが、アフリカの2種は突起が2つです。

アフリカのゾウ2種は、オスもメスも口の外に飛び出た牙がありますが、アジアゾウではオスの一部にしかそのような牙がありません。マルミミゾウの牙は、他の2種と異なり、(前向きというよりも)下向きに生えています。

アフリカのゾウ2種は、アフリカ大陸のような形の大きな耳を持っています。ただし、マルミミゾウの耳はサバンナゾウより小さくて、一般に丸みのある形をしています。アジアゾウの耳はさらに小さく、(広げると)三角に近い形をしています。

ゾウの分布

アジアゾウの4000年前の分布は、西はチグリス・ユーフラテス盆地まで、東北は揚子江を越えるところまで広がっていました。しかし、現在では、西はインド、東北は中国南端の雲南省にまで縮小しています(アジアの13か国に分布)。現在の生息域面積は歴史的なそれの面積の6%にも及びません。

分布図 https://www.iucnredlist.org/species/7140/45818198

マルミミゾウは、現在コンゴ盆地を中心としたアフリカ中央部の熱帯林(サバンナとのモザイクも存在)に生息しています(アフリカの22か国)。サハラ以北、地中海沿岸部まで生息していた個体群は6世紀後半には絶滅しています。現在の生息域面積は歴史的なそれの25%に過ぎません。

分布図 https://www.iucnredlist.org/species/181007989/204404464

アフリカサバンナゾウは、現在アフリカ南部と東部を中心に、サハラ以南の主としてサバンナに生息しています(アフリカの24か国)。その生息域面積は、サハラ以南のアフリカで農耕が始まる以前(おそらく2000年前頃) の15%に過ぎないと考えられています。

分布図 https://www.iucnredlist.org/species/181008073/223031019

ゾウの個体数

アジアゾウの個体数は、48,323~51,680頭と推定されています(2022年時点)。そのおよそ60%がインドに生息します。東南アジアのカンボジア、インドネシア(スマトラ島)、ラオス、ミャンマー、ベトナムの生息状況には特に大きな懸念があります。IUCNのレッド・リストでは、長らく絶滅のおそれが「非常に高い」(EN)とされています。3世代(アジアゾウの世代期間は20–25年なので、60–75年)の間に個体数が50%以上減少したこと(減少またはその原因が収まっていない場合に限る)が理由です。

マルミミゾウの個体数は、約13万3300頭(97,000~169,890頭)と推定されています(2022年時点)。その70%以上がガボンに生息します。これ以外に、「推測」で、1万5000頭から2万8250頭が生息する可能性があるとされています。IUCNのレッド・リストでは、絶滅のおそれが「極度に高い」(CR)とされています。3世代(マルミミゾウの世代期間は31年なので93年)の間に80%以上減少したこと(減少またはその原因が収まっていない場合に限る)が理由です。実際には、31年間に86%減少したと推定されました 。

アフリカサバンナゾウの個体数は、2016年時点では、マルミミゾウと合わせ、個体数は41万5000頭と推定され、この数の他に、裏付けが十分ではない「推測」 として、11万7000頭が存在する可能性があるとされていましたIUCNのレッドリストでは、これまで絶滅のおそれが「高い」ランク(VU)とされていたものが、2020年に「非常に高い」(EN)に変更されています。3世代(サバンナゾウの世代期間は25年なので、75年)の間に50%以上減少したこと(減少またはその原因が収まっていない場合に限る)が理由です。実際には、50年で60%減少したと推定されました。

ゾウの生態

ゾウは完全な草食で、毎日大量の草、枝葉を食べます。 ゾウは、こうした食べものを求め、日常的に、さらに季節的にはより広範囲に移動する動物です。行く先々で食べた植物の種子をフンによって遠くまで運びます。ゾウの消化はあまりよくないため、糞には草木の種子が残りますが、それが行く先々の土地で発芽し、森の再生につながることになるのです。ゾウにしか食べられない堅い木の実を食べて発芽させやすくすることもあります。ゾウの群れは木の皮をはいで食べ、木の幹そのものを倒すこともしばしばですが、そうすることで森に光を入れて下草を育て、森林と草地がモザイクとなった植生を作り出します。ゾウの森林を草地に変える力は強大で、これが生態系の自然なプロセスとなっています。
ゾウが群れで鬱蒼とした森林を繰り返し歩くことで「ゾウ道」ができ、他の野生動物たちがこれを利用します。乾季に水を掘り当てるのもゾウの役目です。ゾウの日常的なくらしが独特な生態系を創り上げ、様々な生きもののくらしを支えているのです。

ゾウの社会

ゾウは群れで暮らす高度に社会的な動物で、寿命は60歳以上です。母系の群れで、メスとその子が単位ですが、おばあさん、出産を終えた娘たち、孫たちという構成がよくみられます。母親、おばあさん、叔母さんはもちろん、5歳以上のメスゾウは皆で子ゾウの面倒を見ます。群のリーダーはおばあさんです。孫たちに危険があるとそのリーダーシップのもと子ゾウは群れで囲み込み、みんなで子ゾウを守ります。オスたちは12~15歳くらいの時期に群れから独立し、同じ年頃のオスゾウどうしで群れることが多いですが、メスたちの家族群れのような結びつきはないようです。
ゾウは、視覚(鼻や耳や体全体を使った身振り)、聴覚(大人のゾウが発する呼びかけを26種に分類した研究がある)、触覚(鼻どうしからめたり、鼻を体にはわせたり口元に持って行ったりする)、臭覚(ひづめの間から化学物質を分泌する)によって、複雑なコミュニケーションをしていることがわかっています。

参照文献

Gobush, K.S., Edwards, C.T.T, Maisels, F., Wittemyer, G., Balfour, D. & Taylor, R.D. 2021. Loxodonta cyclotis (errata version published in 2021). The IUCN Red List of Threatened Species 2021
Raman Sukumar. 2003. The Living Elephants–Evolutionary Ecology, Behavior, and Conservation. Oxford University Press
Raman Sukumar. 2011. The Story of Asia’s Elephants. The Marg Foundation
R. Thouless, H. T. Dublin, J. J. Blanc, D. P. Skinner, T. E. Daniel, R. D. Taylor, F. Maisels, H. L. Frederick and P.Bouche. 2016. African Elephant Status Report 2016–An update from the African Elephant Database. IUCN/SSC African Elephant Specialist Group
Williams, C., Tiwari, S.K., Goswami, V.R., de Silva, S., Kumar, A., Baskaran, N., Yoganand, K. & Menon, V. 2020. Elephas maximus. The IUCN Red List of Threatened Species 2020
など

ゾウに対する脅威と、その保全のためになされるべきこと

絶滅のおそれのある野生生物を選定する「レッド・リスト」(国際自然保護連合IUCN作成)では、アジアゾウは「絶滅のおそれが非常に高い」とされる種のランク(EN (Endangered))に、アフリカゾウは「絶滅のおそれが高い」とされる種のランク(VU (Vulnerable))に選定されています。

第1の脅威:生息地の消失・分断化を招く土地の改変・収奪と、それに対する保全策

ゾウ本来の生息地である森林や草地が、水田や油やし(オイル・パーム)プランテーションなどの農地、入植者の集落、金属や石炭の採鉱場に転換され、あるいは道路、鉄道、パイプラインなどによってズタズタに分断されています。その結果、ゾウが使える場所と人間が改変したために使えなくなった場所とがつぎはぎ(パッチワーク)のような状態になっています。ひどい場合には、村と農地に取り囲まれた小さな森の断片に閉じこめられた「ポケットの中の群れ」のようになり、やがては消滅してしまいます。

押し込められた狭い森林の断片のすぐ外側は農地であるため、栄養価の高い農作物に誘われて農地を襲うゾウも増えます。ときには村人に死傷者が出ることもあります。ゾウは村人の激しい怒りを買い、ゾウの保全に対する地域の理解は薄れます。報復的な密猟もひんぱんに起きます。

ゾウの生存のためには、必要な生息環境(森林、草地、水辺など)が備わった広い生息地が連続している必要があります。ゾウの個体群(地域的なグループ)が長期にわたって生存するためには、数千平方キロメートル(東京都がおよそ2千平方キロメートル)以上の面積の土地が必要です。

そこでまず、ゾウの重要な生息地はできるだけ保護地域に指定した上で、内部の生息環境の悪化を防止する必要があります。

一方、ゾウのように広い範囲を移動する動物が出没する土地のすべてを保護地域で囲うことは不可能です。そこで次善の策として、ゾウが分断されつつある生息地を広く使えるよう、生息地パッチ(保護地域に指定すべき土地)どうしを「渡り廊下」のようにつないでいる線状の土地=コリドーの確保が重要となります。アジアゾウの実例では、コリドーの幅は0.5~1km、長さは5km未満がのぞましいとされています。あまり狭かったり、長すぎたりすると、コリドーの外の土地(そこは、ほぼ確実に人間が農地などに利用しています)に出てしまって、人間との間に「コンフリクト」(人間の側には農作物被害や人身被害を、ゾウの間には密猟をもたらします)が起きるリスクが増します。
さらに、保護地域に指定されなかった生息地(とくに保護地域に隣接する土地)においても、ゾウを完全に排除するのではなく、可能な限りゾウとの共存をはかる必要があります。そのためには、第1に、森林の伐採を抑えたり、道路・パイプライン等のインフラ開発にゾウの生息に配慮した条件を付けたりするよう、土地利用を計画的に調整することが必要です。第2に、地域住民と協働して行う共存のための暮らしの構築です。そこには、地域住民に対する人身被害や農作物被害を予防するための対策、一定の被害を受忍してもらうための被害補償、暮らし向上に対する支援、保全に関する教育普及活動が含まれます。これらの取組みの成否は、地域住民との協働が形だけのものでないこと、それぞれの地域のニーズを反映した内容であることがカギとなります。

第2の脅威:野生個体群の崩壊をもたらす象牙取引目的の密猟と、それに対する保全策

インド、中国、地中海で古代文明が栄えたころから、彫刻、装飾品の材料として利用されてきた象牙。19世紀後期から20世紀前期には、プラスチックが広く普及する前の欧米で、工業製品の材料として需要が大きく高まりました。それに代わって、1970年代後半から1980年代にかけては東アジアで象牙需要が爆発。その主役が日本でした。1979年から1988年までの間に日本へ輸入された未加工象牙は、アフリカ大陸から輸出された量の約40%、ゾウの数にして12万頭前後にのぼりました。この時期、アフリカでは象牙目的の密猟が激化、自動小銃等の武器の近代化によってゾウが群ごと一掃されていました。その結果、この期間にアフリカのゾウは120万頭から60万頭へと半減してしまいました。

ワシントン条約が1989年に象牙の国際商業取引を禁止したことで、いったん密猟は収まりますが、日本など一部の国々が象牙取引を再開して象牙を求め続ける姿勢に期待してか、象牙の密輸ネットワークもしぶとく生き残りました。そして、中国の経済成長とともに象牙需要が再度爆発、2006年頃から密猟が激化、2010年頃には年3万頭を超えるアフリカのゾウが密猟されたとみられ、2015年時点でアフリカ大陸全体のゾウの個体数が減少しつつあることが報告されました。

国境を越えたブラックマーケットで取引される象牙を目的としたゾウの密猟を撲滅するためには、世界中の国々がいっせいに国内象牙市場を閉鎖することが必要です。幸い、ワシントン条約では、2016年、すべての国が密猟または違法取引に寄与する国内象牙市場を閉鎖するよう勧告が採択されました。中国、米国、香港、英国、シンガポール、EUなど、日本を除く主要な象牙市場のある国すべてが国内象牙市場を閉鎖しています。