トラー危機と保全の動きの今_2026

トラー危機と保全の動きの今

2026

「レッド・リスト」は、野生生物種の絶滅のおそれを評価し、いくつかのカテゴリーに分類するもの。国際自然保護連合(IUCN)の種の保存委員会(SSC)が作成しています。トラ、アフリカサバンナゾウ、アジアゾウは「絶滅のおそれが非常に高い」、マルミミゾウは「絶滅のおそれが極度に高い」とされます。最近、SSCは種の保全の未来に向けた前向きなビジョンを示すべく「グリーン・ステイタス」を打ち出しました。これは、レッド・リストに選定された種の回復と保全の効果に関する新たなカテゴリーを示すものです。JTEFが保全活動に取り組む種のうち、現時点ではトラとマルミミゾウについてグリーン・ステイタス評価が行われています。

グリーン・ステイタスが想定する「完全な回復」とは、その種が歴史的に分布してきた全域に存在し、全域で存続可能で(絶滅のおそれにさらされていない)、全域でその生態学的機能を発揮していることを指します。この「完全な回復」を100%とし、そこからの実態の隔たりを%で示します(「グリーン・スコア」)。言うまでもありませんが、ほとんどの種にとって「完全な回復」は現実には不可能でしょう。この定義の狙いは、かつての生息域のどれほどが失われてしまったのかという文脈の下で、どの生息域に保全のチャンスが残されているかを、すべての種について共通の手法で評価できるようにすることにあります。

具体的な保全の効果を測る手法については、過去、現在、短期的未来(10年後。保全活動が行われた場合、行われなかった場合の2つのシナリオを設定)、長期的未来の各時点におけるグリーン・スコアを推定します。そうすることで、次の4つの評価軸が整えられます。

保全の遺産」:現在の種の状態に貢献した過去の保全努力

保全への依存度」:保全活動を止めてしまった場合、10年後、種の状態にどの程度の影響が及ぶか

保全によって得られる利益」:計画されている保全活動が行われることで、10年後に期待できる種の状態の変化

回復のポテンシャル」:今日の世界の現状を踏まえ、種の歴史的な分布範囲において、生態学的に機能する種の個体群が修復され得る程度(例えば、トラはかつて、現在のジャカルタにも生息していたが、その生息域を修復することは不可能)

田村維新氏提供

回復カテゴリー」は「極度の喪失」、「回復スコア」は14%という評価です。そこには、トラが24に区分されたもともとの生息域のうち9つで絶滅し、残る15の生息域すべてで生存の危機にさらされている(5つの生息域では絶滅のおそれが「高い」、2つでは「非常に高い」、8つでは「極度に高い」)現状が反映されています。

一方、「保全の遺産」は「高い」と評価されました。これまでの保全の努力が仮に行われていなかったとしたら、最悪の場合、7つの生息域での地域絶滅はまぬかれなかった(それ以外の8つの生息域では絶滅のおそれが極度に高い状態へ)と考えられたためです。

(これから10年間の)「保全への依存度」と「保全によって得られる利益」は、ともに「低い」

とされました。これは、今後の保全の努力がトラの存続にあまり影響しないという意味ではなく、トラという動物の長い生活史を考えると、保全活動継続の基準とされる「10年」がその存続への影響を測るには短過ぎるからだとされています。そして、生息域が「極度の喪失」状態にあるトラにとって、たとえわずかな状況の改善であっても、重要な保全上の利益をもたらすはずだと強調され、今後の10年間を通して、いくつかの生息域でさらなる縮小が食い止められ、限定的にせよ生息域が拡大し、種の現状が改善されることも期待できるとのことです。逆に保全活動が止まってしまったら、最悪のシナリオでは、今残されている15の生息域うち4つで地域絶滅が避けられない状況になると予測されています。 長期的な「回復のポテンシャル」については「中程度」とされました(基準となる「完全な回復」の定義の厳しさを考えると、相当な希望があるということです)。もし、妥当な保全活動が全面的に実施され、最大限の効果を発揮したとしたら、100年以内に歴史的な生息域24すべてに(もっとも控えめな予測でも7つの生息域以外に)トラが戻ってくると予測されています。その場合、9つの生息域では個体群が存続可能な状態に、少なくとも5つの生息域の一部ではトラが生態学的機能を果たすようになっているとされます。

トラー危機と保全の動きの今_2025