ブログ:第3回「イリオモテヤマネコの日」に記念シンポジウム

300 300 Japan Tiger Elephant Organization

2018年4月15日、西表島西部の「わいわいホール」で、記念シンポジウム「世界自然遺産登録:屋久島の教訓と西表島へのメッセージ」を開催しました。大牟田一美氏(屋久島うみがめ館)と高山雄介(やまねこパトロール)の対談と、会場とのディスカッションという構成です。狙いは、屋久島の経験から学び、世界自然遺産に登録されようとしている西表島の課題を明らかにすることでした。対談のポイントと概要は次のとおりです。

西表島の方が屋久島より観光客増加のおそれが強い?
屋久島も西表島も、2012年頃までは、観光客が同じように増加したり減少したりして、ほぼ同数の入域が見られました。屋久島では世界遺産効果によって、西表島では1990年代から2000年代にかけての沖縄ブーム効果によって観光客が増えて、2007年から2008年にかけてピークをなし、同年のリーマンショックから2011年の東日本大震災にいた至る落ち込みがあるのも共通しています。

ただし、2011年を境に、屋久島と西表島は対照をなします。屋久島は下がり続けているのに、西表島では回復しています。この事実は、今後の西表島への観光客の入域がどのように変化していくかを考えるうえでよく考えておく必要があります。
理由の1つとして考えられるのは、屋久島と比較すると、大都市圏から西表島へのアクセスが圧倒的にいいことです。東京から屋久島への航空直行便はありません。伊丹、鹿児島、福岡から約70名乗りの小型機で行くしかないのです。鹿児島から高速船を利用することもできますが、鹿児島空港から鹿児島港までの移動で約1時間、さらにそこから乗船して2時間、合計3時間くらいかかってしまいます。これに対し、東京から石垣空港までは直行便もあり、那覇経由で飛ぶことも容易、安いチケットの品ぞろえも豊富です。石垣離島ターミナルから西表島へはわずか40分前後。さらに沖縄県は、観光収入1兆円・入域観光客 1,000 万人の達成を目指していて 、現実に2017年には初の 900 万人台を記録して5年連続で過去最高を更新しています。石垣島でも4月の下旬から7万トンクラスのクルーズ船がつけ係留できる施設が暫定的にオープンし、石垣空港も国際線旅客施設の整備や、駐機場の拡張が構想されています。沖縄、八重山そして西表島への観光客の流れが加速すれば、西表島と屋久島へのアクセスの差は今後さらに開いていくかもしれません。
理由の2つ目として考えられるのは、西表島ではビギナーでも気軽に訪れることのできるフィールドがより充実しており、トライしやすいアウトドア・アクティビティが様々に開発されているということです。屋久島と西表島は、ともに川が多く、水が豊かであるという共通した特徴をもっています。しかし、アウトドアでの遊びについては両者には違いがあります。屋久島では亜熱帯とはいえ冬場の高山帯は雪が降り、河川の水温は低く、河川勾配もきつい印象であり、ウォーターアクティビティの利用は限定的です。ガイド事業者が案内するコースも登山が多いです。これに対し、西表島の場合は、それほど熟練者でなくても、たいていの川にどの季節でも入っていける。また、かつての西表島の観光地は、仲間川と浦内川、そしてダイビングがメインで、山や川でのアクティビティはピナイサーラの滝など限定的でしたが、最近はカヌーやキャニオニング、沢歩き、サップなどアクティビティが増えています。西表島にはそのようなアクティビティに利用しやすいフィールドが島内に沢山あり、その利用は全域に及ぶようになっています。その意味では、西表島では、河川環境が屋久島よりも簡単にかく乱されてしまうおそれがあります。
実際、平成26年の環境省による国立公園の利用実態調査によるフィールド利用者数のデータによれば、10年前に比べて利用者数が5倍以上に増えた地点がいくつもある。最も利用が増えた場所で白浜林道70倍、クーラ川40倍、北船付川で50倍という増加率になっています。

遊歩道やトイレなどの観光用インフラ整備は、さらなる観光客の増加を招き、整備と管理の「いたちごっこ」に
屋久島の白谷雲水峡、屋久杉ランドは観光地として整備されており、一般観光客ないしマスツアー客とエコツアー客が入り混じって観光しています。屋久杉ランドではマスツアー客向けの30分コースは全部舗装されています。白谷雲水峡についても1時間コースからあります。これらのコースは、バスツアー客のお年寄りなどが歩いています。長いコースについてもところどころしっかり案内板が立っています。しかしインフラを整えてしまったがゆえにさらなる入域客の増加を招き、インフラの維持管理の問題も生じていることは、環境省の保護管も認めていたところです。観光客が増えるから遊歩道を整備する、トイレを作る、駐車場を拡張する、そうすると観光客が一層増えて、遊歩道やトイレの維持管理が追い付かなくなる、周囲の自然はますます劣化していきます。まるで終わりのない軍拡競争のようだと言えるでしょう。
さらに、インフラ整備が大きく進められた場所は誰でも気軽に行けるため、ガイドの利用率が非常に低くなっており、ガイド事業者にとっては、インフラ整備を要望したことが自分の首を絞めるような結果にもなってしまっています。

屋久島から学ぶべき西表島における観光利用管理の課題
1. 島中のフィールドでツアー客が増えオーバーユースがさらに悪化するおそれがあること

2. (自然環境の劣化を防ぐはずの)インフラ整備は、入域観光客を増やし、さらにガイドを付けない観光客を増やすという落とし穴にもなるということ

3. ガイド制に実効性を持たせるのは簡単ではないこと

4. 住民の生活に影響が出るおそれが強いこと 例えば、医療サービス、ごみ、緊急時の自治組織の負担

5. (屋久島からの教訓というわけではないが)イリオモテヤマネコの交通事故のさらなる増加の懸念があるということ

解決策は、観光客の総量規制=フィールドごとの立入り制限+入島制限
以上の課題を見ると、それらの多くに共通する解決策が、総量規制だと理解できます。
屋久島では、林業中心の島から世界自然遺産とエコツーリズムの島へと、急激な政策転換がありました。当時は、遺産登録の影響について認知されていなかったということもありますが、十分な対策が行われなかった結果、25年も経つ今でも無秩序な観光利用による自然の荒廃という問題に苦しみ続けています。しかもその影響が、縄文杉だけでなくウミガメ観察という全く想像もされなかった形でもあらわれました。やまねこパトロールは、今回大牟田さんに永田浜を案内していただきましたが、とても小さな浜でした。そのような場所にひと夏に数千人の人が入り込んでおり、全く法的な規制が機能していないことには大変なショックを受けました。西表島では、屋久島の経験を活かし、各フィールドにどの程度の人が入れるか=フィールドごとの立入り制限を定めることの重要性が実感されました。
一方、住民生活へのプレッシャーを抑えるには入島制限も必要です。屋久島では幸いにも降水量が多い為、水についての心配がありませんでしたが、西表島は夏場の降水は台風に強く依存するため、水不足に陥りやすいといえます。そんな中で、どれだけの観光客を西表島に受け入れられるのか=石垣港で入島観光客の人数制限も定める必要もあるのではないでしょうか。
確かに、自然地域への観光客の本格的な総量規制は、日本でほとんど例が存在しません。とはいえ、世界遺産登録に向けた手続きはどんどん進んでいます。2か月後、6月24日~7月4日にかけて開催される世界遺産委員会で、西表島の世界自然遺産登録が認められる見通し(注:その後、日本政府は推薦を取下げ、来年以降に出し直しをするということとなった。)というところまで来てしまっています。屋久島の大牟田さんは、屋久島での経験から、観光客、ガイドが大きく増えた後では総量規制の導入は難しい、今やらないと取り返しがつかない状態になると指摘されていました。

4月18日付八重山毎日新聞記事

Leave a Reply

Your email address will not be published.