ゾウ

ゾウは、アジアに1種、アフリカに2種が生息し、それらの地域の自然を代表する地上最大の動物です。しかし、レッド・リストでは絶滅のおそれが「非常に高い」または「極度に高い」種に選定されてしまっています。ゾウは、生態系の鍵となる生きもので、その大きな体で木を倒し、森と草原とのモザイクを作り出し、広範囲を移動しながら種子をたくさん含むフンを落として新たな森を育くみます。ゾウを保全することはいくつもの生態系を含んだ地域(「ランドスケープ」といいます)を保全することにつながります。

プロジェクト

南インド(ケララ州等)および中央インド(マハラシュトラ州等)のアジアゾウの生息域で、ゾウが移動するためのコリドーとして使っている線状の土地を保全し、森林火災や密猟を防止します。そのために、次の支援を行います。

・保護地域およびその周辺地域の管理措置としてのパトロール活動等への支援

・保護地域外の生息地や、ゾウが生息地間を移動するためのコリドーとして使っている区域において、地域コミュニティが中心となり、地元行政(森林局)とNGOがそれを支える形で実施される、ゾウと地域住民とのコンフリクト緩和のための諸活動への支援

毎年2~3万頭のアフリカのゾウが象牙目的の密猟で殺される中、ワシントン条約では象牙の輸出入の禁止に加え、各国に国内の象牙市場を閉鎖するよう求める改正決議案を採択しました(2016年10月)。そこでJTEFは、日本の象牙市場が現実に閉鎖状態となるよう、政府に対しては条約決議を守って象牙販売を禁止するよう、取引の中心地である東京都には国に先駆けて都内の象牙販売を禁止するよう求める政策提言を、小売業者に対しては自主的に販売を中止するよう求めるキャンペーンを、消費者に対しては象牙を買わないよう求めるキャンペーンを行います。また、このような活動の基礎とするために、日本の象牙市場とそこで起きている違法取引の実態、日本による象牙市場管理の実効性に関する調査研究を行っています。

日本にいる子どもたちが、一方では人間と様々な点で異なるトラに抱く畏敬の念と、一方では共通点を見出して感じる親近感を、ゾウという存在への「共感」に高めることで、森に暮らす野生のゾウの保全に関心が向かい、そのために行動する意欲を持つことになるような環境教育プログラムを制作、実施します。

ゾウに対する脅威と、その保全のためになされるべきこと

絶滅のおそれのある野生生物を選定する「レッド・リスト」(国際自然保護連合IUCN作成)では、アジアゾウは「絶滅のおそれが非常に高い」とされる種のランク(EN (Endangered))に、アフリカゾウは「絶滅のおそれが高い」とされる種のランク(VU (Vulnerable))に選定されています。

1.ゾウの生息地確保

ゾウ本来の生息地である森林や草地が、水田や油やし(オイル・パーム)プランテーションなどの農地、入植者の集落、金属や石炭の採鉱場に転換され、あるいは道路、鉄道、パイプラインなどによってズタズタに分断されています。その結果、ゾウが使える場所と人間が改変したために使えなくなった場所とがつぎはぎ(パッチワーク)のような状態になっています。ひどい場合には、村と農地に取り囲まれた小さな森の断片に閉じこめられた「ポケットの中の群れ」のようになり、やがては消滅してしまいます。

押し込められた狭い森林の断片のすぐ外側は農地であるため、栄養価の高い農作物に誘われて農地を襲うゾウも増えます。ときには村人に死傷者が出ることもあります。ゾウは村人の激しい怒りを買い、ゾウの保全に対する地域の理解は薄れます。報復的な密猟もひんぱんに起きます。

ゾウの生存のためには、必要な生息環境(森林、草地、水辺など)が備わった広い生息地が連続している必要があります。ゾウの個体群(地域的なグループ)の長期にわたる生存を考えれば、数千平方キロメートル(東京都がおよそ2千平方キロメートル)以上の面積の土地が必要といわれています。生息地破壊がさらに悪化すれば、ゾウに未来はありません。ゾウの生息地を確保するためには、広大な地域を対象にして、その中でゾウの生息地の確保と人間の土地利用を計画的に調整していく必要があります。

まず、ゾウの重要な生息地となっている区域はできるだけ保護区に指定した上で、内部の生息環境の悪化を防止しなければなりません。

一方、ゾウが広大な生息地を必要とする以上、そのすべてを保護区で囲うことは不可能です。そこで、ある程度の広さのある生息地パッチ(保護区に指定されたものも含む)どうしを、人の占拠する土地を縫うようにしてつなげることが重要となります。そうすれば、ゾウがより広い生息地を使うことができます。生息地パッチどうしを「渡り廊下」のようにつなぐ帯状の生息地を生物学的回廊=コリドーと呼んでいます。ゾウは長い距離を移動する動物なので(特に季節移動)、生息地パッチをコリドーでつなぐことは特に重要です。アジアゾウの実例では、コリドーの幅は0.5~1km、長さは5km未満がのぞましいとされています。あまり狭かったり、長すぎたりすると、人間の利用する土地に出てしまって農作物被害などが起きるリスクも増します。コリドー内の植生は、接続する生息地パッチと同じものであることが多いようです。
保護区を十分広く確保でき、コリドーも十分機能している場合はよいでしょうが、そのようなことはむしろまれでしょう。そこで、保護区外となった生息地(とくに保護区に隣接する場所やコリドーの内外)においても、ゾウを完全に排除するのではなく、土地利用を調整して(たとえば森林の伐採方法や、道路・パイプライン等のインフラ整備方法にゾウの生息に配慮した条件を付けるなど)ゾウとの共存をはかる必要があります。こうした調整に対する地元の理解を得るためにも、ゾウによる人身被害や農作物被害を予防するための対策、一定の被害を受忍する見返りとなる暮らし向上に対する支援、保全に関する教育普及活動を組み合わせて実施することが重要となります。

2.象牙目的の密猟・違法取引の撲滅と国内象牙市場の閉鎖(象牙販売禁止)

密猟の主な狙いは皮や肉ではなく、国際的なブラック・マーケットで高額で取引される象牙です。とくにアフリカゾウは、1970年代後半から1980年代にかけての象牙目的の密猟が主な原因となって1980年代の10年間で134万頭から62万5000頭へと半減してしまいました。その後、1990年に象牙の国際取引が禁止されたことによって、いったんは密猟・違法取引は息を潜めます。しかし、日本など一部の国々が象牙取引再開を強く求め続けたためか、違法業者たちが象牙の国際市場を見限ることはありませんでした。2006年までには象牙目的の密猟が再び増加しはじめ、2010年から2014年までの間には、毎年およそ3万頭のゾウが殺されていました。象牙の需要がある限り、儲けに目がくらんだ違法行為は耐えることがありません。象牙の密猟と密輸を撲滅するためには、世界各国で象牙の販売を禁止することが必要です。幸い、ワシントン条約の締約国会議は、2016年、すべての国に対して、密猟または違法取引に寄与する国内象牙市場を閉鎖するよう勧告する決議を採択しました。米国、中国、英国、シンガポール、EUら世界の主要な象牙消費国はすべて、象牙市場を閉鎖しました。

ところが、世界の中で唯一日本だけが、「我が国の市場は違法取引に寄与しておらず、閉鎖勧告の対象外である」として市場閉鎖を拒み、大量の象牙在庫を確保し、ありとあらゆる種類の象牙製品を製造・販売し続けています。そのため、未だに「合法的に象牙が買える」日本で象牙を仕入れ、海外に違法輸出する事例が絶えません。日本は、世界各国が象牙の需要を減らし、また密輸取締りを強化せんとする努力に水を差しているのです。日本は条約決議を遵守し、緊急に象牙市場を閉鎖しなければなりません。