ブログ:象牙業者VS保護活動家 日本の象牙市場閉鎖の是非 より説得力があるのは?

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毎日新聞2019年6月12日記事「象牙取引続く 日本の課題は」に掲載された、「日本象牙美術工芸組合連合会」鶴見剛会長と、NPO法人「トラ・ゾウ保護基金」坂元雅行事務局長の談話。両者の発言を話題ごとに区切って、鶴見、坂元の順に並べ替えた。加除は一切ないが、一つの話題に関する発言が散らばっている場合は、一か所にまとめた。また、話題を示す見出しをつけた。両者の対立点がよりわかりやすいだろう。

毎日新聞記事 https://mainichi.jp/articles/20190612/ddm/013/040/007000c

【両者の象牙取引への関わり】

(象牙組合・鶴見)私は象牙で三味線のばちや糸巻き、琴の爪など和楽器の付属品を作る職人だ。

(トラゾウ・坂元)危機的状況にある野生動物の役に立ちたいと、弁護士登録と同時に1993年から活動を始めた。

【市場を流通する象牙の合法性は確保できているか?】

(象牙組合・鶴見)日本では象牙市場の合法性を示すため、全形牙(未加工の象牙)の登録制度のほか、昨年施行の改正種の保存法で新たに製造・販売業者の登録制度もできた。象牙文化を守るため、業界として今できることはやっているのではないかと考えている。

法令に従い、象牙製品を国内で販売すること自体は今も全く問題はない。

しかし、日本から中国など国外へ象牙製品が違法に持ち出されていることは非常に残念だ。一部の業者がルールを守らないことで、海外から十把一からげに「日本は(象牙市場を)コントロールできていないからダメだ」と言われてしまう。当面は、国外への密輸出を食い止めなければならない。市場閉鎖に踏み切っても結局はルールを守らない業者が大量に密輸出すると懸念している。そもそも日本の象牙取引について正しい情報が伝わっていない。

(トラゾウ・坂元)今の日本の象牙市場は「89年以前に輸入された象牙が流通している」ことが前提だが、それはフィクションだ。象牙の取得経緯が不明確だから。私たちの調査では、象牙の登録制度のよりどころになっている証明書の作成者の98%は申請者の家族や知人だ。それで、市場に流通している象牙が合法的に輸入されたものと担保したことになるのか。実情は、密猟でないとの確たる裏付けのない象牙が国内市場で流通している。

【日本の市場は、『市場閉鎖を求める条約決議の対象にならない』とする政府見解の正当性は?】

(象牙組合・鶴見)2016年のワシントン条約締約国会議で密猟または違法取引に関わる国内市場の閉鎖を求める決議が採択されたが、日本政府は「国内市場は厳格に管理されており、市場閉鎖の対象にはならない」と表明した。今年の締約国会議に向け、ケニアなどが日本と欧州連合(EU)を名指しする形で国内市場の閉鎖を求める決議案を提案したが、条約事務局は「国内取引に言及するのは条約の範囲外。決議案は根拠を欠く」との趣旨のコメントをしている。

(トラゾウ・坂元)

2000年代初めまでは日本が世界最大の象牙市場だったが、00年代半ばから経済発展を背景に中国市場が台頭した。しかし、中国は象牙取引に厳しい目を向ける国際情勢を読んで、15年に国内の象牙市場閉鎖を表明した。再び世界最大の合法的な市場を維持する日本に目が向くようになった。

日本政府や象牙の製造・販売関係者は、ことあるごとに「日本の象牙市場はゾウの密猟を助長していない」と主張する。その主張は国際社会で大変奇妙に思われている。国際会議などで「国際社会の流れは『市場があるから密猟はなくならない。閉鎖してゾウを保護しよう』なのに、なぜ日本は市場閉鎖に応じないのか」と説明を求められる。私は「自国の象牙産業を守るため、国際社会とあえて議論をかみ合わせないよう、ごまかし続けるのだろう」と伝える。政府方針は、89年にワシントン条約で国際取引が禁止されて以来の「日本の象牙産業」という既得権益を守る「重いバトン」だと。

【象牙の持続可能な利用は実現可能なのか?】

(象牙組合・鶴見)ワシントン条約は野生生物の持続可能な利用を理念に掲げる。アフリカゾウの原産国全てで減少しているわけではなく、南部アフリカ諸国では生息数が増えている地域もある。条約の国際会議でも、日本の象牙市場によって密猟が引き起こされ、絶滅の危機に瀕しているということはないとのデータが示された。

現地では農作物などに被害を及ぼす害獣の側面もある。象牙に経済的価値がなければ現地住民がゾウを守る動機付けも失われる。日本の象牙産業が今後も持続可能な利用を続け、管理された国際取引につながれば、南部アフリカなどの象牙原産国や住民の繁栄に役立つと信じる。ゾウの保全のためにも象牙の合法的な市場が必要と考えている。

(トラゾウ・坂元)「ゾウの生息数が増えている」と主張する南部アフリカ諸国から輸入すれば、象牙の持続的な利用ができるとの主張もある。しかし、ワシントン条約事務局の密猟監視プログラムによると、17年は16年に比べ、南部アフリカでも死んだ数のうち密猟の割合が高まっている。「象牙の持続可能な利用」は、生息状況の変化を無視して唱え続けられるドグマ(教義)だ。

【日本の象牙市場は、従来どおり管理のもとに維持すべきか?「狭い例外」を除き閉鎖すべきか?】

(象牙組合・鶴見)顧客の演奏家によれば、象牙製品はプラスチックなどの代替素材と音色が異なり、汗を吸って手になじむという。日本の伝統工芸品として、象牙製品を次世代に残すことが一つの責務と思っている。

ゾウが減り続けていいはずはないし、ゾウを殺してまで象牙が欲しいとも思わない。自然死するゾウの牙を有効利用できれば、それで十分と考える。印鑑など日本の象牙需要は激減している。国内の在庫を大切に使いながら野生生物の保全に貢献したい。

(トラゾウ・坂元)和楽器に使われる象牙は文化的な利用として尊重されるべきだ。一定の猶予期間、適正な管理を前提に取引を認め、一方で流通量の8割を占める印鑑など、それ以外の象牙製品はほぼ禁止することを提案したい。ワシントン条約締約国会議で採択された市場閉鎖の決議でも「狭い例外を除く」とある。国際社会が納得する例外なら許される。高名な和楽器の演奏家は「次世代には違う素材を使ってもらうことになるだろう」と話した。十分検討に値する。年限を決めて取引を認め、その後は段階的にやめればいいのではないか。

東京五輪を契機に、国内の象牙市場に国際社会の厳しい目が向けられるだろう。法改正に残された時間は少ない。早く市場閉鎖にかじを切ってほしい。

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