ブログ:中国で大移動を続けるゾウたちが訴える「フェアな共存」

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6月8日

5月27日に雲南省 玉渓(スーシー)市の街中に突如15頭のゾウが出現。中国のアジアゾウは、同省の南西部、ラオスと国境を接する野生動物の宝庫 西双版納(シーサンパンナ)に300頭が残るばかりで、そのうち15頭の家族が500㎞以上も移動してきたことになります。人の死亡事故は確認されていないものの、莫大な農作物被害などが起きているようです。ゾウたちは北上を続けましたが、同省の都である昆明(クンミン)市の手前で方向をずらしたと報じられました。一方で、新たに17頭のゾウがシーサンパンナから移動を始めたという情報もあります。

ゾウが長距離を季節移動することは良く知られていますし、雲南のゾウは個体数が徐々に回復する一方で地元では農業者とのトラブルが高まっているという事情もありました。それにしても、突然このような大移動が起きることはいかにも不可解だというのが専門家の見方で、一番可能性が高いのは生息地を大規模に破壊する出来事が引き金となったと言われています。実はインドでも、1990年代の後半、インド北西から北東へ向けて100頭以上のゾウがブラマプトラ川に沿って大移動したことがありました。移動していった先は1950年代以来ゾウが見られなかった場所です。この出来事はヒマラヤ山麓の生息地で大規模な農地開発があったことが原因だと考えられています。

いずれにしても、今の中国にはゾウ唯一の生息地となってしまったシーサンパンナに接続する生息適地がほぼ残っておらず、どこへ行っても土地は人間が独占している状況。ゾウはそんなことは知らないのですが。。。緊急にゾウと人の命を守るための解決策は、ゾウを捕獲して元の保護区に戻すしかありません。その一方、中国の野生のゾウが長期にわたって存続できるようにするためには、(困難なことではありますが)できる限り早期に、よりスケールの大きい生息地保全策を立案、実行しなければならないでしょう。そのためには様々な社会経済的な影響も考慮した土地利用政策の見直しが必要になります。「人間社会も血を流す」ことが求められるのは必至です。

中国のゾウたちが置かれている状況は、大なり小なり、それぞれの国に暮らすアジアゾウすべてに当てはまります。真の「人とゾウとの共存」は生半可なことでは実現しない。人間社会から不満が出ない程度に最低限の土地をゾウに分かち与えるようなアンフェアなやり方で「共存」なんて無理だ。希望のない行進を続ける中国のゾウたちは、そう訴えているような気がします。