ブログ:象牙の違法輸出に関与していたとみられる、東京象牙美術工芸協同組合の組合員が逮捕される

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2025年6月2日、警視庁は、有限会社醍醐象牙店(埼玉県)の役員らを逮捕しました。醍醐象牙店は、東京象牙美術工芸協同組合(21社)の組合員でした(共同通信配信ほか各紙、NHK, TBS, FNNなど)。

逮捕の容疑は、象牙のカット・ピース(分割した牙)ないし端材をマンモスであるとして虚偽の表示をしたこと(不正競争防止法違反)、象牙の取引を伴う事業(「特別国際種事業」)を行う登録業者に課された遵守事項に違反したこと(種の保存法違反)です。後者の違反とは、分割した牙のトレーサビリティ確保を狙いとして、登録業者に義務付けられた「管理票」の作成を怠ったというものです。

直接の容疑は、国内での象牙販売に関する法律違反ということになりますが、この事件が問いかける大問題は、その先にあります。

醍醐象牙店は、自社ウェブサイトでも象牙製品を販売していましたが、Yahoo!オークションにおける象牙と疑われる商品およびマンモス牙の出品はとりわけ大量でした。日本最大級の電子商取引プラットフォームを運営するLINEヤフーは、2019年11月1日から自主的に同社プラットフォーム上での象牙販売を禁止しています。しかし、最近JTEFが実施したYahoo!オークション落札事例調査によれば、3年間(2021年7月~2024年6月)に醍醐象牙店が出品したとみられる商品の落札額は、象牙製疑いのあるもの(「象牙風」など象牙類似素材をうたったもの、および隠語を加えつつ「天然素材」をうたったもの)が1億1600万円を超え、マンモス牙の落札も1億円を超えていました。

今回警視庁に押収された象牙(報道によれば購入額計12万6510円)は、この間に醍醐象牙店が販売していた象牙のカット・ピースや端材のほんの一部です。残る大部分の象牙は、誰が何の目的で購入したのでしょうか?

JTEFは、2022年、中国政府のウェブサイトにおける判例検索を用い、中国の刑事法廷で審理された日本から中国への象牙違法輸出に関する45の事件を把握、うち2件に醍醐象牙店がかかわっていたことを把握していました。うち1つの事件では、2011年4月、中国人の被告人が、醍醐象牙店が大量の象牙、カバ牙等の端材を取り扱っていることを知り、直接コンタクト、重量にかかわらず1月当たり100,000円の代金で端材を買い取ることを醍醐象牙店のオーナーと契約、翌月からの3か月間で、125,786.82gの象牙端材、348gのカバ牙端材を買い取っていました。それらは、EMS(国際スピード郵便)を使って、日本から中国へ送られていました。

このような事例に加えて、日本国内にカット・ピースと端材に対する大きな需要があるとは考えにくいことから、JTEFは、最近Yahoo!オークションを通じて醍醐象牙店から購入された象牙も、その多くが国外へ流出していったのではないかと推測しています。

日本がゾウの違法な国際取引へどのように寄与しているかについては、ワシントン条約の「ゾウ取引情報システム」のデータに示されています。2020年にコロナ禍が深刻化する前の10年間(2010~2019年)に日本が関与した象牙押収は、合計257件、押収された象牙の総重量は3.3トンに及びます。これらの押収象牙の多くは、我が国から違法に輸出され、他国で押収されたものです

今回の事件は、日本の国内象牙市場が違法に輸出される象牙の温床になっていることを改めて強く示唆しているといえます。

それだけではありません。

政府は、条約の市場閉鎖決議に対して、「厳格に管理されている我が国の国内象牙市場の閉鎖を求める内容ではない」と主張し続けています。その管理体制の要とされるのが、経済産業省、環境省、日本象牙美術工芸組合連合会、LINEヤフーの4者が事務局を務める「適正な象牙取引の推進に関する官民協議会」です。

今回の事件は、この日本象牙美術工芸組合連合会を大阪の組合と共に構成する東京象牙美術工芸協同組合の組合員がLINEヤフーの電子商取引プラットフォームを利用しての犯行でした。「表」では「厳格管理」の中枢にいるはずの関係者が、「裏」で行っていた犯罪です。これで、政府の言う「厳格に管理されている我が国の国内象牙市場」とは名ばかりであることが明らかになったわけです。報道によれば、逮捕された醍醐象牙店の経営者は、今回の犯行について「たばこのポイ捨てレベルだろうと思って、警察が動くと思ってなかった」と警視庁に供述していたということです。

ワシントン条約は1989年に象牙の国際商業取引を禁止し、翌1990年に禁止が発効しました。しかし、世界の主だった消費国の国内には合法市場が残され、消費者が依然として象牙を自由に買える状況でした。そのため、その需要を狙って、象牙の密輸入が絶えませんでした。そこで2016年に開催されたワシントン条約CoP17は、ゾウの取引に関する決議を改正し、ゾウの密猟または象牙の違法取引に寄与する合法な国内象牙市場がある国に対して、一部の品目についての狭い例外を除き、象牙が販売される国内市場を緊急に閉鎖するよう勧告しました。

今こそ、日本政府は条約の決議を遵守するために、象牙の国内販売を禁止し、市場を閉鎖しなければなりません。現在、環境省による種の保存法の見直しが行われていますが、国内象牙市場閉鎖を実現するまたとない機会です。