「ゾウ類と人類」のオンライン配信
https://www.jtef.jp/wp/wp-content/uploads/2025/09/WTI-ele-face.jpg 637 668 Japan Tiger Elephant Organization Japan Tiger Elephant Organization https://www.jtef.jp/wp/wp-content/uploads/2025/09/WTI-ele-face.jpgゾウ類と人類は、その誕生以来、進化の王道を歩む双璧のような存在だった。ところが、仮にそれらの歴史を記した全500頁の書物があったとすると、最後の1頁まで進んだところで突然、両者は生存の「勝者」と「敗者」という対照をなすことになる。
ゾウ類と人類は、その誕生以来、地球上の広範囲にわたる地域で長い時を共にしてきた。当初の両者の関係は、人類が死肉食という形態でゾウ類を捕食することを除いては、それぞれ生態系を介して間接的につながっているという程度であったろう。しかし、その関係は、時を追うにつれて激変していった。そのほとんどは、現生人類であるホモ・サピエンスの作り上げた人間社会の持つ、広い意味での環境を改変する能力が加速度的に増大し続けてきたことによる。今や、人類は地球上で唯一無二の超優占生物として未来へ歩みを進める存在に登り詰めた。一方、ゾウ類はかつてのライバルによって進化史にピリオドを打たれかねない存在に堕した。
野生生物としてのゾウ類は、それぞれが個性を持つ個体が基本単位となる個体群を成し、その内部で複層的な社会を構成するとともに、他種と相互に作用し合い、その生息域で織り成される生態系において礎石(キーストーン)としての役割を果たし、長い時間軸において種として進化を遂げてきた。しかし、このゾウ類本来の生きざまは、人類の手によって風前の灯火となりつつある。


本書執筆の動機は、このような人類ないし人間社会のあり方を転換していくことが現世代に課せられた責務であることの根拠を、事実によって示したいと考えたことにある。 この点を追究するためには、人間社会が今現在、ゾウたちにしていることを認識するだけでは足りない。人類が長い歴史の中でゾウ類に対して行ってきたことと、その積み重ねがゾウ類に何をもたらしてきたかを知ったうえで、今日の人間社会がゾウ類に及ぼしているインパクトの重大さを初めて理解することができるからである。
しかし、一人の人間にとって、たとえそれがゾウの保全に特別な関心を持つ人であったとしても、自分の人生をはるかに超える時間軸において、複雑に相関し合う様々な人類の行為の蓄積がどのようにして今日のゾウ類の衰退を招いたかについてイメージすることは、大変難しい。そのため、野生生物保全という一種の文化が人間社会に芽生えるようになった現代においても、政策決定者や有識者と呼ばれる人々が(最終的にどのような結論をとるかは別として)「これ以上、ゾウの生存リスクを高めることは控える」「この行為によるゾウへの悪影響を断定することはできないが、予防的にふるまう」という原則論を意識できているかどうかは疑わしい。ゾウ類の未来に向けた存続可能性が、今日なお右肩下がりであるのも当然である。
そこで本書は、人類が長い歴史の中でゾウ類に対して何を行ってきたか、その積み重ねがゾウ類に何をもたらしてきたかという観点から歴史的事実を整理し、今日の人間社会がゾウ類に及ぼしているインパクトの重大さ、人類がゾウ類に対してどれほどの責任を負っているかを浮き彫りにすることを目指した。
人類の野生動物への干渉(人と野生動物との「関係」というニュートラルな表現が好んで使われるのが一般だが、実態として一方的なかかわりである。)という観点からは、ゾウは飛び抜けて史料がそろっている動物と言えよう。それは、それぞれの時代の記録にとどめる必要があるほどに、ゾウが人間にとって大きな利害の対象とされてきたことの証である。そこに記されているのは、生態学的な種間の相互作用を超えてゾウ類を生け捕りしてゾウの社会および生態系から切り離し、殺し、あるいはゾウらしく生きることが難しいほどに生息環境を劣化させ、奪い、他への移動も許さないという、ゾウの立場からすればまさに蹂躙の歴史と評すべきものであった。
本書と意図を同じくするとは言えないが、一定の観点から人間社会のゾウへの干渉に関する史実を紹介する秀逸な書籍、論文、報告書は数多い。世界中の各時代の資料原典に当たる能力も余裕もない筆者は、これらの先達の成果に大いに頼るとともに、同時代的な出来事については、トラ・ゾウ保護基金の活動等を通じて自ら収集したデータ、非公開資料、自身が見聞した事実も、出典を明示しつつ、適切な範囲で引用した。
人類のゾウ類との共存は、現在進行形の課題であり、その成り行きを引き続き記録し、考察していく必要がある。その意味で、本書は完結してはいない(第16章まで公表。第17章は年内に配信予定)。しかし、「今、私たちがどこにいるのか」を考えるための材料は提示できていると思い、この段階でいったん公開させていただくこととした。
なお、本書では、「ゾウ類」を、既に絶滅したものを含む長鼻目の属を指す用語として、「人類」をヒトおよび進化の系統上チンパンジーよりもヒトに近縁と考えられるアウストラロピテクスなどの絶滅した(ヒト科の)属(広辞苑にいう広義の人類)を指す用語として用いている。
本書は、インターネットで公開するものであるが、誤りの訂正、追加資料に基づく加筆、公開後の事態の進展に応じたアップデートなど、適宜改訂していきたいと考えている。
*オリジナルのイラストは、土肥優子さんによる。
2025年9月7日
坂 元 雅 行
認定NPO法人トラ・ゾウ保護基金 事務局長理事
第3章 象牙取引の始まり(青銅器ないし鉄器時代・古代文明時代:5500~3000年前)
第4章 権力の象徴「戦闘ゾウ」としての捕獲、取引、利用(古代文明時代から17世紀頃まで)
第5章 東西世界の需要をみたすグローバルな象牙取引ネットワークの発展(紀元前1千年紀~16世紀頃)
第6章 欧米列強による世界の象牙取引支配(17~19世紀前期頃)
第7章 運搬、森林伐採、見世物、スポーツハンティング(16世紀頃~現在まで)
第8章 象牙は大量生産される工業製品の原材料に:拡大する象牙狩りと象牙取引(19世紀後期~1910年代頃)
第9章 アフリカ植民地化時代からゾウ生息国独立期にかけての象牙狩りと象牙取引(1920年代~1960年代頃)
第10章 加速する生息地収奪と、人とゾウとのコンフリクトの増大(植民地支配の時代からゾウ生息国の独立期まで)
第11章 現代における象牙密猟危機のはじまり(1970年代)
第14章 象牙消費のためのゾウの「サステイナブル・ユース」が世界を席巻した20年(1990年代~2010年代初め)(上)
第14章 象牙消費のためのゾウの「サステイナブル・ユース」が世界を席巻した20年(1990年代~2010年代初め)(下)
第16章 ワシントン条約における象牙取引政策の大転換:国内象牙市場閉鎖勧告へ(2013~2016年)
第17章 日本による象牙産業保護のための国内象牙市場維持戦略
第18章 現在を生きるゾウ類(2020年代)・・・予定
第19章 象牙需要のない世界の志向・・・予定
第20章 22世紀:人類はゾウ類との共存を受け入れるか・・・予定



