ブログ:11月のワシントン条約CoP20に、アフリカ諸国が国内象牙市場閉鎖に関する議案書を提出

500 498 Japan Tiger Elephant Organization

2025年7月11日、来る第20回締約国会議(CoP20)の議題およびそれに関する議案書が、ワシントン条約公式ウェブサイトで公開された[1]。そこには、「国内象牙市場閉鎖に関する決議Conf.10.10(CoP19改正)の実施」(CoP20 Doc.76.2)[2]も含まれる。提案したのは、アフリカのブルキナファソ、エチオピア、ニジェールおよびセネガルの4か国である。

この議案書には、日本に対して、一部の品目についての狭い例外を除き、合法な国内象牙市場を閉鎖するための立法上の措置等を求める決定案も含まれている。この議題の審議の結果は、国内象牙市場維持の姿勢を崩そうとしない経済産業省・環境省の今後の方針に大きな影響を及ぼす可能性があると考えられる。そこで、議案書の概要を紹介することとしたい。

この議案書では、新たに公開された「ゾウ取引情報システム」(ETIS)に蓄積された押収データが参照されつつ、関係締約国から後述の条約決定に基づいて常設委員会(SC)に提出された報告書について、国内象牙市場が密猟や違法取引に確実に寄与しないようにするための措置を示すものとなっているかどうかが検討されている。そのうえで、未だ市場を閉鎖していない締約国に対して、緊急にそれを履行するよう勧告する決議10.10(CoP19改正)第5段落を履行するために必要と考えられる措置が勧告されている。

ワシントン条約CoP17(2016年)は、ゾウの取引に関する決議Conf.10.10を改正し、国内象牙市場閉鎖を勧告した。この決議は、密猟や違法取引に寄与している合法的な国内象牙市場を有する締約国に対し、一部の品目についての狭い例外は認めつつ、商業取引のための国内象牙市場を閉鎖するために必要なすべての立法上、規制上および執行上の措置を講じることを求めていた。

2019年、CoP18は、上記決議10.10第5段落の促進を目的とした決定18.117~18.119を採択した。この一連の決定は、関係締約国に対し、国内象牙市場が密猟や違法取引に確実に寄与しないようにするためにどのような措置を講じているかをSCが検討できるようにするため、事務局に報告書を提出するよう求めるとともに、SCにはCoPに必要な勧告を行うよう指示し、CoPが関係締約国に必要な勧告を行う機会を与えている。これらの決定は、CoP19でも更新されており、現在も有効である。

2022年、CoP19は象牙の押収と国内象牙市場に関する決定19.99~19.101を採択した。これらの決定は、象牙の商業取引のための合法的な国内市場を有する各締約国に関連する象牙の押収に関する分析が実施可能かどうかを評価するよう求めていた。提案された分析の目的は、特定の締約国の国内象牙市場が密猟や違法取引に寄与しているかどうか、そして当該締約国が決定18.117に基づいて報告した措置が有効であるかどうかを、SCとCoPがより詳細に検討できるようにすることにあった。しかし、その後、SC78によってこれらの決定の削除がCoP20に勧告されることとなった。ETISの運用に関して助言を行うSC設置にかかる諸部会が、この分析に含めるべき締約国の範囲を明確に特定できず、したがって分析の目的と範囲を絞り込むこともできず、分析の実施可能性が見込めない状況となったためである。もっとも、決議10.10第5段落の履行促進のために、関係締約国でとられている措置を評価する必要性が否定されたわけではない。

そのような中、条約事務局の監督の下でETISデータの管理・分析を行うTRAFFICが、各国または地域の最新のETISデータの概要をETIS専用ウェブページで公開した。象牙押収に対する各締約国の関与が客観的に示されたことで、締約国の国内象牙市場が象牙の違法取引に寄与しているかどうかの具体的な考察が可能となったのである。

以上の背景のもと、このETISデータを活用して、関係締約国が決定18.117に基づいて提出した報告書を簡潔に評価する試みが行われることとなった。

CoP19(2022年)以降に決定18.117(CoP19で改正)に基づいて報告書を提出した締約国・地域は、EU、インド、日本、ニュージーランド、南アフリカ共和国、タイ、英国、米国、ジンバブエである。

各国提出の報告書の検討に先立ち、それぞれの締約国・地域が2008~2025の各年に関与した象牙の押収件数・重量に関する最新のETISデータが示され、それが無視できるレベルにとどまるものかどうかが検討されている。

次に、各国・地域の報告書に示された、合法市場が密猟・違法取引に確実に寄与しないようにするためにとられている措置が要約されている。

そのうえで、以下の事項について検討が行われた。

①「国内象牙市場における取引禁止とその例外」

②「合法市場の違法な(国際)取引に寄与している可能性」

③「決議10.10(CoP19改正)第5段落を履行するために求められる措置」

①は、基本的に当該国の報告書の記載を要約するものとなっている。②は、基本的に2008~2025年までのETISデータに基づいて判定されている。③は、①と②の結果に基づく簡潔な考察によるものである。各国・地域について示された①~③の検討結果を要約すると次のとおりである。

①の国内取引禁止とその例外については、完全な禁止を行うインド、一部の品目に関する例外付で禁止を行っているEU、英国、米国(タイは品目ではなく飼育下のアジアゾウ来の象牙を禁止の例外にしている)、例外付で禁止がされているどうかが不明な南アフリカとジンバブエ、(実際上)品目の制限なしに取引が認められている日本とニュージーランドと、大きく分かれた。

②については、どの国についても、押収された象牙の違法な国際取引への関与が無視できる程度とは言えないことから、(合法市場が存在しないとされたインドを除き、)国内に存在する合法象牙市場は大なり小なり「違法取引に寄与」している可能性があるとされた。

③の各国の国内象牙市場が密猟や違法取引に確実に寄与しないようにするために、どのような措置が必要かについては、インドを除くすべての国に対して、違法な国際取引を抑止するための効果的な法執行(の継続)が求められている。一方、日本とニュージーランドについては、国内取引禁止のための立法上の措置の必要性が指摘された。南アフリカ共和国とジンバブエについては、SCが求められる措置の検討をするうえで、立法上の措置に関するさらなる情報提供が必要とされた。

本議案書は、関係締約国に対し、国内象牙市場が密猟や違法取引に確実に寄与しないようにするために講じている措置に関する決定18.117~18.119を更新するよう求めている(更新しなければCoP20以降失効してしまう)。

また、(程度は別として)合法な国内象牙市場が存在しているにもかかわらず、上記決定に基づいて報告書を提出していない国があると考えられることから、それらの国に対して報告を行うよう促すことを事務局に指示する決定案を提案している。

さらに議案書は、報告書を提出した国々の状況の具体的検討に基づき、一部の国に対して、個別の勧告を行う決定案を提案している。その内容は以下のとおりである。

密猟および違法取引に寄与しない一部の品目についての狭い例外を設けたうえで、商業目的の象牙の国内取引を緊急に禁止するための立法上の措置を講じ、決定18.117(CoP20改正)で求められている報告書に進捗状況に関する情報を含めるよう要請する。

決定 18.117(CoP20改正)で求められる報告書に、商業目的の象牙の国内取引の規制を可能にする法律改正案の進捗状況に関する情報を含めるよう要請する。

決定18.117(CoP20改正)で求められる報告書に、商業目的の未加工象牙及び加工象牙の国内取引禁止の例外に関する情報、並びに入手可能な場合は、近年商業目的で国内取引された象牙の量に関する情報を含めるよう要請する。

決定18.117(CoP20改正)で求められる報告書に、商業目的の未加工象牙及び加工象牙の国内取引禁止の例外に関する情報、並びに入手可能な場合は、近年商業目的で国内取引された象牙の量に関する情報を含めるよう要請する。

以下、本議案書の本文に示された日本に対する評価の全文を仮訳して紹介する。

ETISデータによると、2008年から2025年(2025年は6月10日までの期間)にかけて、日本に関連する象牙押収は321件あり、その重量は3,634kgだった。特に、2020年のコロナ禍による国際輸送の世界的な混乱以前の2010年から2019年の10年間には、日本に関連する象牙押収が257件記録され、3,330kgの象牙が押収されていた。

特筆すべきは、押収品321件のうち267件(83%)、そして押収量3,634kgのうち3,022kg(83%)が「Out(輸出)」と分類されていることである。これは、日本がその象牙の取引ルート上の主要国として特定される一方、それらの押収の大部分が世界の他の地域から報告されていることを意味する(注:これに対して“In”は、当該国(この場合は日本)において象牙押収が行われたケースを示す)。日本は、その国内で合法的に購入された象牙の輸出拠点として機能していると考えられるため、日本国内の在庫に由来する、あるいは日本を通過する象牙の違法取引を阻止するための日本の法執行体制に欠点があることが示唆されているといえる。

2011年から2016年の間に、ETISは日本から違法に輸出された象牙の押収を148件記録しており、中国向けであった象牙の押収は、重量にして計約2.3トンとなる113件に達していた[3]。TRAFFICは、日本からの象牙の違法輸出、特に中国向けが継続していることについて、繰り返し懸念を表明していた[4]

違法輸出が現在日本の主要な問題となっていることを考慮すると、海外で押収された象牙のうち日本に関連するものの割合が高いのは、日本の国内市場における象牙の流出圧力が強すぎて、国境管理が対応しきれないことが原因であると考えられる[5]

決議18.117(CoP19改正)に基づき日本が提出した最新の報告書は、SC78 Doc.65.4 Annex2に掲載されている。この報告書は、「象牙規制に関する法律(改正種の保存法の概要)」、「国内象牙取引に関する管理措置の強化」、「国際協力」、「個人が保有する象牙在庫」の4項目で構成されている。各項の内容は、象牙在庫に関する詳細なデータを除き、2021年に発出された事務局通知2021/005に対する日本の報告(SC74 Doc.39 Annex 5に掲載)と実質的に同じである。

日本のSC78への報告書(SC78 Doc.65.4 Annex 2)[6]および以前にSC70へ提出された絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)に関する報告書[7]によると、日本は、以下の条件のいずれかを満たす場合に限り、あらゆる種類の未加工象牙および加工象牙の商業目的での国内取引を合法化している。つまり、条約発効前に取得された象牙、輸出国が発行した条約発効前取得の証明書を伴って日本に輸入された象牙、または1999年および2009年に条約で承認された1回限定販売の象牙として日本に輸入された未加工象牙から派生したものである。

日本国内には、登録済みの全形が保持された牙(全形牙)175,639kg、登録事業者から報告されたカットピースおよび端材75,949kgを含む、少なくとも251トンの未加工象牙が民間保有の合法在庫として存在している。未加工象牙のほかに、829,025個の「印章」ないしハンコ、545,029個の「アクセサリー」などを含む4,611,521点の加工象牙の民間保有の合法在庫がある[8]。日本は、全形牙以外の未加工象牙および加工象牙を取り扱うすべての事業者の登録制度、および取引前に全形牙を登録することを求める制度を通じて商業目的の象牙市場を管理してきた[9]

日本の「象牙規制に関する法律」の有効性については、これまでの締約国会議および常設委員会において、繰り返し懸念が提起されてきた[10]。懸念事項には以下が含まれる。

・象牙関連事業者の登録は、管轄当局による精査を欠いた簡素な審査によって行われている一方で、登録業者は牙を細かく切断して「全形牙100%登録」の義務を回避している。

・カットピースの在庫データ保管の義務は、生産時点での出所及び取得の合法性の確認が行われていないため、トレーサビリティの確保に意味のある効果を発揮する可能性は低い。

・全形牙登録のための放射性炭素年代測定結果の提出の新たな義務化は、「第三者の証言」により既に登録されている大量の在庫象牙には適用されず、全形牙登録の新規申請にのみ適用されている。

・法定刑が厳格化されたにもかかわらず、違反者に課せられた実際の宣告刑の水準は非常に低く、野生生物犯罪の厳格な処罰と訴追を回避する傾向が続いているようである。

・日本政府が強調している対策は、主に密輸象牙が市場に流入するのを防ぐことに重点を置いており、象牙の違法輸出を防ぐものではない。

最後の段落に関連することであるが、象牙を取り扱う事業者の登録制度は、違法象牙が国内の加工・取引過程に流入するのを防ぐことを目的としている。これらの措置は違法象牙の輸入防止には関係するものの、違法輸出の防止には関連しない。同様に、放射性炭素年代測定法の活用を含む全形牙の登録制度は、密輸象牙が合法市場に流入するのを防ぐことを目的としており、違法輸出の防止には関連しない。

前述のとおり、日本は過去に合法的に輸入されたあらゆる種類の未加工象牙および加工象牙の商業目的による国内取引を合法化している。したがって、日本の立法上の措置は、締約国に対し「商業取引のための国内市場を閉鎖するために必要なすべての立法上、規制上、および執行上の措置をとる」ことを勧告し、「一部の品目については、この閉鎖に対する狭い例外を認める」決議Conf.10.10(CoP19改正)第3項および第4項のアプローチに合致していない。

象牙の押収量は概ね減少傾向にあるものの、これにはいくつかの要因が考えられる(詳細は「所見と結論」を参照[11])。全体として、象牙の押収量に関するETISデータは、日本の合法市場が象牙の違法な国際取引に寄与している可能性があると信じるに足る合理的な根拠を示している。違法輸出が現在最大の懸案事項であり、条約発効前の国内在庫象牙を広く合法的に取引できることを考えると、合法的な国内市場が象牙の違法輸出を促進してきた可能性が認められる。さらに、国内市場で合法的に購入できる未加工象牙および加工象牙の在庫が膨大であることを考えると、日本で入手された象牙製品が第三国に違法に輸出されるリスクは、国内市場が開かれている限り継続するであろう。コロナ禍以降、国際的な人や物資の移動が増加していることを考えると、市場が違法取引に寄与する割合は今後さらに大きくなる可能性がある。

過去のETIS報告書で強調されているように[12]、日本は長年にわたる象牙の最終消費市場であり、1990年の取引禁止以来、ワシントン条約に基づく象牙の一回限定販売における購入者となってきた。国際象牙取引の歴史における日本の特異な立場、国外で押収された象牙の割合の高さ、そして将来的に違法取引に対する合法市場の寄与がさらに大きくなる可能性を考慮すると、決議10.10(CoP19改正)第3項、第4項、および第5項に従って、一部の品目について極めて限定的な例外を設けた上で、商業目的の象牙の国内取引を禁止する立法措置が緊急に必要であると考えられる。さらに、その新法あるいは改正法が効果的に執行されるよう、規制導入と連携した執行上の措置が必要である。


[1] https://cites.org/eng/cop/20/agenda-documents

[2] https://cites.org/sites/default/files/documents/COP/20/agenda/E-CoP20-076-02.pdf

[3] Kitade, T. and Nishino, R. 2017. Ivory Towers: An assessment of Japan’s ivory trade and domestic market. TRAFFIC. Tokyo, JAPAN https://www.traffic.org/site/assets/files/1715/traffic_report_ivory_towers_web.pdf

[4] Nishino, R. and Kitade, T. 2020. Teetering on the brink: Japan’s online ivory trade. TRAFFIC, Japan Office, Tokyo, Japan  https://www.traffic.org/site/assets/files/13414/teetering-on-the-brink_en.pdf

[5] ブルキナファソが提出したCoP19 Doc.82では、日本から違法に輸出され中国当局に押収された象牙が、日本の合法国内市場(例えば、合法的に運営されているインターネットオークションサイトなど)で日常的に購入されていたことを明らかにされている。1年5ヶ月間に3.26トンの象牙が中国に密輸された事例には、日本の法律に基づいて登録された日本人の象牙取引業者が関与していた。

https://cites.org/sites/default/files/documents/E-CoP19-Inf-82.pdf

[6] SC78 Doc.65.4 Annex 2 https://cites.org/sites/default/files/documents/E-SC78-65-04.pdf

[7] SC70 Doc.27.4 Annex 11 https://cites.org/sites/default/files/eng/com/sc/70/E-SC70-27-04-A11.pdf

[8] SC78 Doc.65.4 Annex 2 https://cites.org/sites/default/files/documents/E-SC78-65-04.pdf

[9] SC78 Doc. 65.4 https://cites.org/sites/default/files/documents/E-SC78-65-04.pdf

  SC74 Doc. 39 https://cites.org/sites/default/files/eng/com/sc/74/E-SC74-39.pdf

[10] SC74 Inf.18 https://cites.org/sites/default/files/eng/com/sc/74/Inf/E-SC74-Inf-18.pdf

CoP19 Doc. 66.3 https://cites.org/sites/default/files/documents/E-CoP19-66-03.pdf

CoP19 Inf. 82 https://cites.org/sites/default/files/documents/E-CoP19-Inf-82.pdf

[11] 「近年の押収量の減少は、特にコロナ禍後の世界的な貿易パターンと執行能力の変化が一因となっている可能性がある。密輸ルートの変化、取締り資源の減少、密売人による戦術の変化といった他の要因も、この減少に寄与している可能性がある。法執行データの継続的な収集、分析、公表を通じて、継続的な監視が必要である」とされている。

[12] CoP17 Doc. 57.6 (Rev. 1) https://cites.org/sites/default/files/eng/cop/17/WorkingDocs/E-CoP17-57-06-R1.pdf