ブログ:CoP20で国内象牙市場閉鎖に新たな進展なし ―決議遵守を監視する決定は更新され、市場閉鎖の重要性を確認
https://www.jtef.jp/wp/wp-content/uploads/2025/11/Brent-S._square.jpg 748 732 Japan Tiger Elephant Organization Japan Tiger Elephant Organization https://www.jtef.jp/wp/wp-content/uploads/2025/11/Brent-S._square.jpg2025年11月24日、サマルカンド(ウズベキスタン)で開幕したワシントン条約第20回締約国会議(CoP20)(12月5日まで)。26日午後に、国内象牙市場の閉鎖に関する議題が、第II委員会で審議されました。
これまでの国内象牙市場に関する重要な決定
国内象牙市場閉鎖については、CoP17(2016年)で、「密猟または違法取引に寄与」する合法象牙市場のある国に対して、一部の品目に対する狭い例外を除き、商業取引の行われる市場を緊急に閉鎖するよう必要な措置を求める勧告が、ゾウの取引に関する決議(Conf.10.10)に盛り込まれました。続くCoP18(2019年)では、市場閉鎖を推進するため、未だ閉鎖をしていない締約国に対して、「密猟または違法取引に寄与」しないようにするためにどのような措置をとっているかを報告するよう求め、常設委員会(3年に一度しか開かれないCoPから委任された事柄などを審議する。)がその報告書を検討する、という一連の決定が採択されました(以下「CoP18決定」といいます)。市場閉鎖を勧告する決議の遵守状況を監視する仕組みです。CoP18決定は、CoP19(2022年)で修正なしに更新されています。
CoP20に提出された議案書では、日本などが提出した報告書の評価が試みられた
今回のCoP20に提出された議案書(アフリカゾウの生息国であるブルキナファソ、エチオピア、ニジェール、セネガルの4か国が提出)では、CoP18決定にもとづいて締約国から提出された報告書に盛り込まれた措置が、国内象牙市場が「密猟または違法取引に寄与」しないようにするものとなっているかどうかが検討されています。評価の対象になった報告書提出国(地域)は、EU、インド、日本、ニュージーランド、タイ、南アフリカ共和国、英国、米国、ジンバブエの9か国です。
各国の違法取引への関与を示す象牙押収データ(ETISデータ)の参照がカギ
新しい試みは、今年ウェブ上で公表された、ワシントン条約の「ゾウ取引情報システム」(ETIS)に蓄積された象牙押収データの国別情報が参照され、今回評価の対象となったそれぞれの国が関与した(取引ルート上に現れている)押収件数と押収重量が示されていることです。これまでは、国別のデータが公表されていなかったため、「条約公式のデータ」によっては各国の合法市場と違法取引とのつながりを示すことができなかったのです。したがって、当然、各国がとっている国内市場管理のための措置がどれほど効果的に「違法取引に寄与」することを防げているかも評価困難でした。
今回の評価では、例えば日本については、象牙の違法取引ルートに日本が登場する押収事例は無視できない程度に達していること、特に日本からの違法輸出が顕著であること、その一方で日本市場ではあらゆるタイプの象牙が合法的に販売されていることが指摘されています。そして、日本がとっている法令上の措置は、一部の品目に対する狭い例外を除いて象牙の販売を禁止するという、条約決議が求めるアプローチになっていないと結論されていました。
今回の議案書が、各国報告書への評価を踏まえて提案した決定案
今回の議案書では、各国が提出した報告書に対する評価を踏まえ、次の2つの勧告案求められました。
CoP18決定を修正したうえで更新すること
各国に報告書の提出を求め、それを常設委員会が検討するというCoP18決定の更新が求められました。ただし、いくつかの修正が加えられていました。修正の最大のポイントは、常設委員会に、各国の報告書と併せて国ごとのETISの象牙押収データも検討するよう求めたことにあります(条約事務局は、無修正で決定を更新するよう求めていました)。
今回評価の対象となった国の一部については、次のとおり個別の勧告を行うこと
評価の対象となった9つの報告書提出国のうち、4か国に対して次の内容を勧告する決定案の採択が求められました。
・南アフリカ共和国とジンバブエについては、象牙販売禁止の範囲・例外に関する情報を報告書に含めること
・ニュージーランドについては、同国で既に進められている国内象牙市場閉鎖の法制化に関する最新情報を報告書に含めること
・日本については、条約決議による勧告に基づき、一部の品目に関する狭い例外を除き、象牙販売を禁止するための法令上の措置をとること、その進捗を報告書に含めること
日本政府の本議案書に対する事前の反応
日本政府は、この議案書に関する日本の立場を事前に公表し、反発を強めていました。ワシントン条約が国内象牙市場閉鎖に踏み込むこと自体が越権行為だという大上段に構えた反論です(その一方、日本から違法輸出が依然継続していることや、品目の限定なしに在庫象牙が広く販売されていることは問題にしない態度です)。
そのうえで、日本政府は、アフリカ各国に置く在外大使館を通じて、日本に市場閉鎖を求める決定案に反対するよう積極的な働きかけを行っていたようです。今回のCoP20では、日本に深くかかわる議題として、ウナギ属の附属書改正提案(提案国:EUおよびパナマ)が注目されていました(27日午後の第1委員会審議の結果、否決)。小泉前農水大臣がEU代表部と交渉したことや、鈴木農水大臣主催の説明会を開催し、在京の57か国の大使館から74名が集まったことなどが報じられています。これほど大掛かりな外交努力とは比較になりませんが、日本政府は、世界からの国内象牙市場閉鎖の求めに対して大きな危機感を持っていたということでしょう。
ウナギ問題は、「国内産業がからむ種の保全のための取引規制」への日本政府の対応という側面で、象牙問題と共通する点があると言えます。「近視眼的な」産業保護という一点で、種の保存、生物多様性の保存という大義を犠牲にする点。その手段として科学的・論理的根拠を(無理に)後付けしようとする点などです。
27日第2委員会における審議の内容と結果
27 日午前、国内象牙市場閉鎖に関して審議が行われました。最初に、ブルキナファソが提案国を代表して提案説明を行いました。国内象牙市場の閉鎖は多くの国で進展が見られた一方、「日本」など未だに市場を閉鎖していない国があること、象牙の国内象牙市場はゾウの生存に対する、妥協の余地のないリスクだという点が強調されました。
これに日本が強く反発、日本はゾウの保全に真剣に取り組んでいること、日本の国内象牙市場は、厳しい規制によって明確に違法取引に寄与しないものとなっていること、日本に対する市場閉鎖の要求は、ワシントン条約の権限を逸脱しており、客観的なデータに基づかないものであると主張しました。そのうえで、提案は速やかに撤回されるよう求めると発言し、そうしないのは条約の精神に反すると提案国を非難、日本に「妥協はない」と強い表現で断言しました。
これに対して、議案書提出国であるニジェール、セネガルに加え、ケニア、マリ、ベニンなど多くのアフリカゾウ生息国から、ブルキナファソを支持する意見が出されました。いずれも象牙目的の密猟の大きなリスクになっていることを懸念し、国内象牙市場閉鎖が勧告されてからほぼ10年が経過する中で、未だに合法象牙市場が残されていることへの懸念を強調するものでした。ケニアは、今回の提案書に示された情報は、明らかに関係国が違法取引に寄与していることを示しており、各国の支持を求めると述べていました。
英国、EU、米国は、自国の市場閉鎖措置の取り組みについて述べました。米国は、自らが国内象牙市場閉鎖勧告の採択を提案した趣旨にもふれて、国内象牙市場閉鎖の推進は「米国にとって優先事項だ」とも述べました。今回の勧告案の対象とされていたニュージーランドは、象牙の国内取引規制に向けてステップを踏んでいるところであり、その経過を今後も報告していくとしました。これらの国々は、日本の意見にはまったく賛同の意を示しませんでしたが、一部の特定の国を選んで勧告を行うことに対しては、賛成できないとしました。その背景には、CoP18決定を遵守して報告書を提出した国だけが評価の対象とされ、勧告を受けるというのは不公平ではないかという懸念があったようです(合法市場が存在しているにもかかわらず報告書を提出していない国があるのは事実。ただし、市場規模はいずれも小さいとみられます)。
一方、ジンバブエや複数のアジアの国々は、特定の国に国内市場閉鎖を求めるのは条約の目的を逸脱するという日本の立場を支持しました。
トラ・ゾウ保護基金は、世界17のオブザーバーNGOを代表して発言を求めましたが、残念ながら指名されませんでした。
このように、日本など特定の国に対する勧告案を支持する意見は、提案国らとそれ以外のいくつかのアフリカゾウ生息国から出させるにとどまりました。その結果、セネガルらの提案を採択しないことがコンセンサスで決まりました(投票なし)。
ただし、既存のCoP18決定(各国に報告書の提出を求め、それを常設委員会が検討するという一連の決定)については、セネガルらによる修正は受け入れられなかったものの、現行の内容で更新されることになりました。日本などの市場未閉鎖国は、引き続き、その市場が密猟または違法取引に寄与しないことを確実にするためにとられている措置を報告する義務を負います。
今後の国内象牙市場閉鎖の行方
CoP20では、日本の国内象牙市場閉鎖の実現に向けた、新たな進展はありませんでした。ただし、国内象牙市場閉鎖を推進していこうという締約国会議の意思が後退したわけではありません。従来どおり、CoP18決定に基づき、市場未閉鎖国に報告を求めることによる、市場閉鎖勧告の遵守状況の監視が継続されることになります。
特に収穫があったと思えるのは、市場閉鎖勧告が採択9年を経た今もなお、「ゾウを保護するために国内象牙市場閉鎖を全世界で実現しなければならない」という多くのアフリカゾウ生息国の意思に揺らぎがない事実が示されたこと、さらに米国、英国、EUらも国内象牙市場閉鎖の推進は今後も重要課題として注視していく姿勢を示したことです。特に印象的だったのは、米国が、トランプ政権下でワシントン条約上も様々な政策を後退させる中、国内象牙市場閉鎖に関する限りは、従来の方針にまったく変化がなく、改めて「国内象牙市場閉鎖は米国にとって優先課題だ」と宣言したことでした。
日本国内に販売可能な大量の象牙在庫が存在し、それらの合法販売が広く行われている状況を背景に、それらの象牙が他のアジア諸国へ違法に輸出され続けているのは厳然たる事実です。JTEFは、今後も日本政府の象牙政策の転換に向けて、はたらきかけを強めていきます。
市場というものは政府の手で創り出したり、維持し続けられたりするものではありません。象牙を買う人がいなくなれば販売を禁止するかどうかに関係なく、消えゆく運命にあります。JTEFは、象牙は(文化財等ごく限られた例外を除き)今日の日本社会・経済にとって必要のない存在であることを、広く世に訴える活動もより強化していきます。



